サンセベリアとサンスベリアの違いは？最新学名と育て方の完全ガイド

「サンセベリア」と「サンスベリア」、園芸店やネットショップで両方の表記を見かけて、どちらが正しい名前なのか混乱したことはありませんか？観葉植物として絶大な人気を誇るこの植物ですが、その呼び名にはちょっとした歴史と、さらに深い植物学上の「大事件」ともいえる事実が隠されています。

結論からお伝えすると、どちらの呼び方を使っても間違いではありません。

この記事では、園芸の専門家として、なぜ二つの名前が存在するのかという疑問にお答えするだけでなく、植物学の最新の知見である「学名の変更」問題についても詳しく解説します。さらに、呼称の違いを理解した上で、多くの方が失敗しがちな「水やり」や「根腐れ」「葉がしわしわになる」といった重要トラブルの対処法まで、サンセベリア（サンスベリア）の育て方を徹底的にガイドします。

• サンセベリアとサンスベリアは同じ植物を指す呼称
• 植物学的には「ドラセナ属」に分類変更されている
• 冬の水やり（断水）が根腐れを防ぐ最大の鍵
• 葉のしわは「水不足」と「寒さ」の二つの原因がある

サンセベリアとサンスベリアの違いは？呼称の由来と最新の「学名」問題

• 結論：呼び方の違いだけで植物は同じ
• 名前の由来と「サンセベリア」が正しい理由
• 重大事実：植物分類学では「ドラセナ属」へ
• なぜ園芸名として「サンセベリア」が残るのか

結論：呼び方の違いだけで植物は同じ

まず、園芸を愛する皆さんの最大の疑問にお答えします。「サンセベリア」も「サンスベリア」も、植物としては全く同じものを指しています。どちらの表記を使っても、園芸店で違う植物が出てくることはありませんので、ご安心ください。

では、なぜ二つの表記が混在しているのでしょうか。これは、ラテン語の学名をカタカナに音写（発音を日本語の文字に置き換えること）する際の「表記ゆれ」が原因です。

この植物の学名は、ラテン語で Sansevieria と綴ります。この「v」の音をどう日本語で表現するかが、混乱の始まりでした。「v」の音を「ヴ」や「バ行」で表記する流れ（例：Venus→ビーナス）と、「サ行」で表記する流れ（例：Violin→バイオリン）があるように、この Sansevieria も「サンセベリア」と「サンスベリア」という二つの読み方が日本で広まってしまったのです。

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どちらも間違いではないので、お店で見かけたら「ああ、あのトラノオ（虎の尾）のことね」と思っていただければ大丈夫です。

流通上はどちらの表記も広く使われており、生産者さんやお店によっても異なります。辞書や植物図鑑、NHKの「趣味の園芸」などでは「サンセベリア」が採用されることが多い傾向にありますが、Web検索のボリュームなどを見ると「サンスベリア」もほぼ同等に使われており、どちらが優勢とも言えないのが現状です。まさに、どちらも「正解」として定着していると言えるでしょう。

名前の由来と「サンセベリア」が正しい理由

では、その「表記ゆれ」の元となった学名 Sansevieria は、一体どこから来たのでしょうか。この名前の由来を知ると、どちらの表記がより「原語に近い」のかが見えてきます。

この属名の由来については複数の説があります。1787年、イタリアの植物学者ヴィンチェンツォ・ペターニャ（Vincenzo Petagna）は、自らの庭園の所有者であるピエトロ・アントーニオ・サンセヴェリーノ（Pietro Antonio Sanseverino）、シャラモンテ伯爵に献名して Sanseverinia と命名しました。その後、1794年にスウェーデンの植物学者カール・ペーター・ツンベルク（Carl Peter Thunberg）が *Sansevieria* と記載し、この綴りが国際的に採用されるようになりました。Thunberg が Raimondo di Sangro（San Severo の第七王子）の名前を念頭に置いていた可能性もありますが、植物学的には Petagna による Sanseverino への献名が先行しています。

ここで注目すべきは、やはり綴りです。Sansevieria と、明確に「v」の文字が使われています。この「v」の発音をカタカナで表現しようとすれば、「ヴ」または「バ行」の音が最も近くなります。そのため、学術的な綴りに忠実な日本語表記は「サンセベリア」（あるいはサンセヴィエリア）であると言えます。

一方、「サンスベリア」という表記は、おそらく口頭で伝える際に発音しやすい音に変化し、それが慣用的に広まったものと推察されます。どちらも間違いではありませんが、名前の由来や歴史的な経緯を尊重するならば、「サンセベリア」と呼ぶのが、かの皇子への敬意も込められるかもしれませんね。

植物の和名が「チトセラン（千歳蘭）」、英名が「Snake Plant（ヘビの植物）」や「Mother-in-law’s tongue（義母の舌）」と呼ばれることからも、この植物がいかに世界中で多様な名前で親しまれてきたかがわかります。

重大事実：植物分類学では「ドラセナ属」へ

「サンセベリア」か「サンスベリア」か——。私たちがこの小さな表記ゆれについて議論している間、実は植物分類学の世界では、この植物の「住所」そのものが変わってしまうという、非常に大きな変革が起きていました。

それは、「サンセベリア属（Sansevieria）」が、実は「ドラセナ属（Dracaena）」に含まれるという事実が判明したことです。

これは、近年の DNA解析技術（分子系統学）の進歩 によって明らかになりました。かつて、植物の分類は主に花や葉の形、生態といった「見た目（形態学）」で行われていました。しかし、遺伝子（DNA）を直接比較できるようになったことで、見た目は全く違っていても、実は遺伝的に非常に近い「親戚」であることや、逆に似ているけれど全くの「他人」であることが判明するケースが相次いでいます。

サンセベリアもその一つでした。DNAを解析した結果、サンセベリア属の植物群は、ドラセナ属の系統樹（家系図）の中に「ネストされている（含まれている）」ことが判明したのです。植物分類学のルールでは、一つのグループ（属）が別のグループの内部から派生している場合、それらを独立した属として認めることができません。

その結果、国際的な植物分類体系である「APG分類体系」の2017年頃の更新において、Sansevieria という属名は解体され、そこに属していた約70種がすべて Dracaena 属へと移管・統合されることになりました。

なぜ園芸名として「サンセベリア」が残るのか

「では、これからはサンセベリアのことを『ドラセナ』と呼ばないといけないの？」——そう心配になるかもしれませんが、その必要はありません。現に、園芸店やホームセンターで、サンセベリアが「ドラセナ・トリファスキアータ」として売られているのを見たことがある人は、ほとんどいないはずです。

これには、学術的な分類（サイエンス）と、園芸業界の流通（コマーシャル）との間に、大きな「習慣の壁」があるからです。

学名が Dracaena に変更されたのは比較的最近（2017年頃）のことですが、Sansevieria という名前は、園芸の世界で100年以上にわたって親しまれ、確固たる地位を築いてきました。生産者、卸売業者、小売店、そして私たち消費者のすべてが、「サンセベリア」という名前でこの植物を認識しています。

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もし今、すべてのタグを「ドラセナ」に書き換えたら、「これはサンセベリアじゃないのか？」「別の植物か？」と、市場が大混乱してしまうのは目に見えていますよね。

そのため、植物学的には「ドラセナ属」の一員となった今でも、園芸業界では、消費者にとって分かりやすい従来の「サンセベリア（またはサンスベリア）」という名前（旧属名）が、流通名・園芸名として使われ続けているのです。これは植物の世界では決して珍しいことではなく、学術的な正確さよりも、長年の習慣と実用性が優先される例の一つです。

この記事でも、こうした実情を踏まえ、読者の皆さんにとって最も馴染み深い「サンセベリア」という呼称を主として、次のセクションである「育て方」の解説を進めていきます。

「サンセベリア（サンスベリア）」の正しい育て方とトラブル対処法

• 根腐れを防ぐ水やりと土の配合
• 葉がしわしわになる原因と対策
• 植え替えと「株分け」「葉挿し」のコツ
• 人気品種ローレンティーとゼラニカの特徴

根腐れを防ぐ水やりと土の配合

サンセベリアの呼称や分類についてスッキリしたところで、ここからは最も重要な「育て方」の解説です。サンセベリアは「育てやすい」と言われる一方で、枯らしてしまう原因のほとんどが「水のやりすぎによる根腐れ」です。この植物はアフリカや南アジアの乾燥地帯が原産で、葉や根に水分を溜め込む「多肉植物」に近い性質を持っています。そのため、日本の高温多湿、特に鉢の中が常に湿っている状態を極端に嫌います。

サンセベリア栽培の成否は、まさに「水やり」にかかっています。最大のポイントは、「季節によって水やりを劇的に変えること」、これに尽きます。特に冬の管理が、根腐れを防ぐ最大の鍵となります。

以下のカレンダーは、サンセベリアの1年間の管理を示したものです。これを守るだけで、失敗は格段に減るはずです。

このメリハリのある水やりを助けるのが「土」です。根腐れを防ぐためには、「水はけ（排水性）」が最も重要です。水やりをした後、余分な水分が鉢の中に残らず、スッと抜けていく土が理想です。

葉がしわしわになる原因と対策

根腐れと並んで多いトラブルが、「葉がしわしわになる（縦じわが寄る）」症状です。これを見ると、多くの方は「水が足りない！」と慌てて水を与えてしまいがちですが、それが致命的な失敗につながる可能性があります。

なぜなら、葉がしわしわになる原因は、主に二つあるからです。

1. 【暖かい時期】単純な「水不足」
2. 【寒い時期】「寒さ」による根の機能停止

原因1：【暖かい時期】の「水不足」
これは春から秋（気温が15℃以上）の成長期に、水やりのタイミングを逃し続けた場合に起こります。サンセベリアは葉に水を蓄えていますが、土からの水分補給が長期間ないと、蓄えた水分を使い果たして葉がしぼみ、しわが寄ります。
この場合の対処は簡単です。土がカラカラに乾いていることを確認し、鉢底から流れるまでたっぷりと水を与えてください。数日すれば、葉が水を吸い上げて元気に（ぷっくりと）回復します。

原因2：【寒い時期】の「寒さ」による根の機能停止
こちらが非常に厄介で、注意が必要なケースです。冬場（気温が10℃以下）に葉がしわしわになった場合、それは水不足ではなく、「寒さで根がダメージを受け、休眠・機能停止している」サインである可能性が非常に高いです。

根が凍えたり、休眠したりしていると、たとえ土の中に水分があっても、それを吸い上げる能力がありません。それにもかかわらず、飼い主が「しわしわだから水不足だ」と判断し、冷たい水を与えてしまうと、休眠中の根が水に浸かった状態になり、一気に腐敗が始まります。これが、冬にサンセベリアを枯らす典型的なパターンです。

適切な温度環境に置けば、根の機能が回復し、しわが戻ることがあります。春になって気温が安定して（15℃以上）から、水やりを再開してください。

植え替えと「株分け」「葉挿し」のコツ

サンセベリアは成長すると鉢の中で根がパンパンになり、「根詰まり」を起こします。根詰まりすると水の吸収が悪くなったり、成長が止まったりするため、1〜2年に1回は植え替えが必要です。

植え替えの最適な時期は、成長期の真っ只中である「5月〜8月」です。冬の休眠期に植え替えると、根がダメージから回復できずに枯れてしまうため、絶対に避けてください。

植え替えの際には、古い土を軽く落とし、一回り大きな鉢に、前述した「水はけの良い土」で植え付けます。この植え替えのタイミングは、サンセベリアを増やす絶好のチャンスでもあります。増やし方には「株分け」と「葉挿し」の2種類があります。

増やし方①：株分け（おすすめ）
サンセベリアは、土の中で「地下茎（ちかけい）」と呼ばれる茎を伸ばし、そこから新しい子株を出して増えます。植え替えで鉢から出した際、親株の周りに子株ができていたら、それを切り離すのが「株分け」です。

1. 親株と子株をつなぐ太い地下茎を、清潔なハサミやナイフでカットします。
2. 【最重要ポイント】切り離した子株は、すぐに植え付けません。切り口から雑菌が入って腐るのを防ぐため、風通しの良い日陰で「半日〜1日」ほど置き、切り口をしっかりと乾燥させます。
3. 切り口が乾いたら、新しい鉢に水はけの良い土で植え付けます。

増やし方②：葉挿し
サンセベリアは、葉の一部からでも再生できる強い生命力を持っています。

1. 元気な葉を選び、1枚の葉を10cmほどの長さにカットします。（上下がわからなくならないよう、印をつけておくと良いでしょう）
2. 【最重要ポイント】これも株分けと同様、切り口を「2〜3日」しっかりと乾燥させます。
3. 乾いたら、上下を間違えないように（元々根元側だった方を下に）して、土に3分の1ほど挿します。
4. 根が出るまで（約1ヶ月）、水やりは絶対にしません。葉に蓄えた水分で十分です。水やりをすると切り口から腐ります。
5. 根が出て、新しい芽（新芽）が土から顔を出したら、ようやく水やりを開始します。

人気品種ローレンティーとゼラニカの特徴

最後に、これからサンセベリアの購入を検討している方のために、園芸店で最もよく見かける、似ているようで違う2つの人気品種をご紹介します。それは「ローレンティー」と「ゼラニカ」です。

サンセベリア・ローレンティー (Dracaena trifasciata ‘Laurentii’)
「サンセベリア」と聞いて多くの人が思い浮かべる、最もスタンダードで人気の高い品種です。「虎の尾（トラノオ）」という和名も、主にこの品種を指します。
最大の特徴は、剣のような緑色の葉の「縁（ふち）」を彩る、鮮やかな黄色の縦模様（斑）です。このくっきりとしたコントラストが、インテリアとして非常に高い人気を誇る理由です。前述の通り、この黄色の斑は「株分け」でしか引き継ぐことができません。

サンセベリア・ゼラニカ (Dracaena zeylanica)
ローレンティーとよく似た草姿ですが、決定的な違いがあります。それは、ゼラニカには「黄色の縁取りがない」ことです。
ゼラニカの魅力は、その葉全体に広がる模様にあります。濃い緑色のベース（地）に、銀色系とグレー緑色の「横方向の波状の縞模様（リップル）」が交互に入ります。ローレンティーの「縦の黄色の覆輪」に対して、ゼラニカは「横方向の銀灰色の波模様」と覚えると良いでしょう。より自然でワイルドな印象を与えます。

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見分け方は簡単です。「黄色いフチがあるのがローレンティー」「黄色いフチがなく、横縞模様なのがゼラニカ」です。どちらも育てやすさは全く同じですので、お部屋の雰囲気に合わせて、お好みの模様を選んでみてくださいね。

総括：サンセベリアとサンスベリアの違いは「呼称」であり、本質は「ドラセナ属」の植物である

この記事のまとめです。

• 「サンセベリア」と「サンスベリア」は同じ植物を指す
• ラテン語の学名 Sansevieria の音写による「表記ゆれ」である
• 綴りに忠実な表記は「サンセベリア」である
• 学名の由来は18世紀イタリアのサンセヴェーロ皇子にちなむ
• 最新の植物分類（APG体系）では「ドラセナ属」に統合された
• 理由は形態学ではなく、DNA（分子系統学）研究によるものである
• 園芸業界では、慣習的に「サンセベリア」の呼称が使われ続けている
• アフリカなどの乾燥地帯が原産であり、乾燥に非常に強い
• 栽培の最大の失敗原因は「水のやりすぎ」による根腐れである
• 春から秋の成長期は、土が完全に乾いたら水を与える
• 冬（気温10℃以下）は休眠するため、原則「断水」する
• 冬の肥料やりは、根を傷める「肥料焼け」の原因となるため厳禁である
• 葉がしわしわになる原因は「水不足（暖かい時期）」か「寒さ（寒い時期）」である
• 冬にしわが出ても、水やりはせず、暖かい場所へ移動させるのが正解である
• 斑入りの「ローレンティー」を葉挿しで増やすと、斑が消えるため「株分け」で増やす