みかん栽培に鶏糞は正解?甘く育てるための正しい使い方と注意点

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「みかんを甘く育てたいけれど、専用の肥料は高価で使い続けるのが大変……」そんな悩みを抱えていませんか?実は、ホームセンターなどで安価で手に入りやすい「鶏糞」は、みかん栽培において非常に強力な味方になります。

しかし、使い方を間違えると「肥料焼け」や「実がスカスカになる(浮き皮)」原因になってしまう諸刃の剣でもあります。

この記事では、プロの視点からみかんに適した鶏糞の選び方、失敗しない施肥のタイミング、そして油かすとの黄金比率までを徹底解説します。正しい知識でコストを抑えながら、今年は最高に甘いみかんを収穫しましょう。

この記事のポイント

  • 鶏糞はリン酸とカルシウムが豊富で、実付きと糖度を向上させる効果が高い
  • 必ず「完熟発酵」されたものを選び、アンモニアガスによる根へのダメージを防ぐ
  • 窒素の与えすぎは、果皮と実が剥離する「浮き皮」や味の低下を招く
  • 2月〜3月の「寒肥」がベストタイミングであり、夏以降の多用は厳禁
目次

みかん栽培に鶏糞は効果的?メリットと注意点を徹底解説

みかん(柑橘類)に鶏糞を使うことは、コストパフォーマンスが良いだけでなく、植物生理学的にも理にかなった面が多くあります。しかし、牛糞や油かすとは全く異なる特徴を持っているため、その性質を正しく理解しておく必要があります。

  • 鶏糞に含まれる成分とみかんへの効果
  • 完熟発酵鶏糞を選ぶべき重要な理由
  • みかんの味が落ちる?与えすぎのリスク
  • 苦土石灰は不要?鶏糞の石灰分について

鶏糞に含まれる成分とみかんへの効果

鶏糞がみかん栽培におすすめされる最大の理由は、その成分バランスとカルシウム含有量にあります。一般的な発酵鶏糞の成分比率(N-P-K)は、おおよそ「3-5-3」や「4-5-3」程度です。ここで注目すべきは、葉や枝を育てる「窒素(N)」に対して、花や実を育てる「リン酸(P)」の割合が高いことです。

みかんにおいてリン酸は、花芽の形成を助けるだけでなく、果実の甘み(糖度)を向上させるために不可欠な栄養素です。リン酸が不足すると花付きが悪くなり、結果として収穫量が激減します。また、特筆すべきは鶏糞に含まれる豊富なカルシウム(石灰分)です。カルシウムは植物の細胞壁を強固にする働きがあり、みかんの皮を丈夫にして病気や害虫への抵抗力を高めます。さらに、光合成に欠かせないマグネシウム(苦土)も含まれているため、葉の色つやを良くし、光合成効率を上げることで、間接的に糖度アップにも貢献します。即効性も有機肥料の中では比較的高いため、春の芽吹き出しのエネルギー源として効率よく働きます。

鶏糞の主なメリット

  • リン酸効果: 花芽形成と糖度向上
  • カルシウム効果: 細胞壁の強化と耐病性アップ
  • 即効性: 有機肥料の中では分解が早く、春のスタートダッシュに最適

完熟発酵鶏糞を選ぶべき重要な理由

ホームセンターに行くと「乾燥鶏糞」と「発酵鶏糞」が売られていますが、みかん栽培には必ず「完熟発酵鶏糞」を選んでください。 これは絶対に妥協してはいけないポイントです。なぜなら、単なる乾燥鶏糞は、土壌水分を含むとそこから急激な分解・発酵プロセスが始まるからです。

安価な「乾燥鶏糞」は、単にフンを乾燥させただけで発酵が済んでいない場合が多くあります。これを土に施すと、土の中で微生物による急激な分解が始まり、その過程で高濃度のアンモニアガス発酵熱が発生します。みかんの根、特に水分や養分を吸収するデリケートな「細根」は、このガスと熱によって焼かれ、壊死してしまいます。これが「肥料焼け(ガス害)」です。根が傷むと、葉が黄色くなったり落葉したりし、最悪の場合は木全体が枯れてしまいます。また、未発酵のものは強烈な悪臭を放ち、ウジやハエなどの害虫を呼び寄せる原因にもなります。パッケージに「完熟」「発酵」と明記されているもの、あるいは「ペレット状」に加工されにおいが抑えられたものを選ぶことで、これらの致命的なリスクを回避できます。

みかんの味が落ちる?与えすぎのリスク

「鶏糞をたくさんあげれば甘くなる」というのは大きな間違いです。むしろ、過剰な施肥はみかんの品質を著しく低下させます。特に注意が必要なのが、窒素分の過剰摂取による「浮き皮(うきがわ)」という生理障害です。

浮き皮とは、果実の実(房)と皮の間に隙間ができ、皮がブヨブヨになってしまう状態のことです。なぜこれが起きるかというと、収穫前の時期に土壌の窒素分が多すぎると、木が「まだ成長期だ」と勘違いをしてしまうからです。

過剰な窒素はタンパク質の合成を促進しますが、その際に大量の糖分を消費してしまいます。その結果、果実の細胞壁を作る材料(セルロースなど)が不足し、皮の組織が弱くなって実から浮いてしまうのです。

こうなると味も水っぽくなり、腐りやすくなるため保存がききません。鶏糞は即効性がある分、効きすぎてしまうことがあるため、「少なめ」を意識し、特に夏以降の施用を控えることが高品質なみかんを作るコツです。

窒素過多のデメリット

  • 浮き皮: 皮と実が分離し、ブヨブヨになる
  • 糖度低下: 糖分が木の成長に使われてしまい、実に蓄積されない
  • 着色不良: 皮の色づきが遅れ、緑色が抜けにくくなる

苦土石灰は不要?鶏糞の石灰分について

園芸の教科書には「酸性土壌を中和するために苦土石灰を撒く」と書かれていますが、鶏糞をメインの肥料として使う場合、別途石灰を撒く必要はほとんどありません。

鶏糞には、もともと約10〜15%もの石灰分(カルシウム)が含まれています。これは、鶏が卵の殻を形成するためにカルシウム豊富な餌を食べているため、その排泄物にも高濃度の石灰分が含まれるからです。

みかんは弱酸性(pH5.5〜6.0程度)の土壌を好みますが、鶏糞自体がpH8〜9程度のアルカリ性資材であるため、これを多用しすぎると土壌がアルカリ性に傾きすぎてしまう恐れがあります。

土壌がアルカリ性になると、鉄分やマンガンなどの微量要素が水に溶け出しにくくなり、葉が黄色くなる「クロロシス(白化現象)」を引き起こす原因になります。鶏糞を毎年施用している場合は、土壌酸度計などでpHを確認し、石灰の追加施用は控えるなどバランス調整が必要です。

みかんへの鶏糞の正しい使い方と施肥カレンダー

鶏糞の特性を理解したところで、実際の作業手順とタイミングについて解説します。みかんの生育サイクルに合わせた適切な時期に施すことで、肥料の効果を最大限に引き出すことができます。

  • 寒肥・追肥・お礼肥のタイミングと鶏糞
  • 鉢植えと地植えでの量の目安と与え方
  • 油かすや化成肥料との賢い使い分け
  • 肥料焼けを防ぐための土壌管理テクニック

寒肥・追肥・お礼肥のタイミングと鶏糞

みかんへの施肥は、年3回のタイミングが基本ですが、鶏糞を使うのに最も適しているのは2月〜3月の「寒肥(かんごえ)」です。この時期は、春の芽吹きと開花に向けて根が活動を始める直前であり、鶏糞に含まれる豊富なリン酸とカルシウムが、春の初期生育と花芽形成を強力にサポートします。

一方、6月の「追肥(実肥)」に鶏糞を使う場合は注意が必要です。前述の通り、この時期に窒素が効きすぎると、夏枝が徒長して生理落果を助長したり、秋の品質低下(浮き皮)につながったりします。

6月はごく少量を施すか、窒素分の少ない肥料に切り替えるのが無難です。10月〜11月の「お礼肥(おれいごえ)」には、収穫で体力を使い果たした木を回復させる目的があります。

通常は速効性のある液肥や化成肥料が推奨されますが、発酵鶏糞であれば分解が早いため使用可能です。ただし、寒冷地などでは地温が下がると微生物の活動が鈍り、分解が遅れて春まで肥料分が残ってしまうことがあります。

これが春の過剰窒素につながるリスクがあるため、お礼肥での使用は寒肥の半量程度に抑えるか、液肥をメインにするのが安全です。

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時期 施肥名称 鶏糞の適性 目的・注意点
2月〜3月 寒肥 ◎ 最適 春の芽出し、花芽形成。ゆっくり分解させて効かせる。
6月 追肥 △ 注意 与えすぎは夏枝徒長、浮き皮の原因に。控えめに。
10月〜11月 お礼肥 ◯ 可能 樹勢回復。寒冷地では分解遅れに注意。

鉢植えと地植えでの量の目安と与え方

鶏糞は成分が凝縮された「濃い」肥料であるため、与える量には慎重になる必要があります。メーカーによって成分量は異なりますが、一般的な目安を紹介します。

【地植え(庭植え)の場合】
成木1本あたり、年間で1kg〜2kg程度を目安にします。これを一度に与えるのではなく、寒肥(2月)に半分(500g〜1kg)、残りを追肥やお礼肥などで分散させます。重要なのは撒く場所です。幹の近くに撒いても、太い根は肥料を吸収できません。枝が広がっている先端(樹冠)の真下あたりに、細かい吸収根が集中しています。この位置にドーナツ状に溝を掘り、土とよく混ぜ込んでください。

【鉢植えの場合】
土の量が限られているため、肥料焼けのリスクが格段に高まります。10号鉢(直径30cm)であれば、一回あたり軽くひとつかみ(約30g〜50g)程度で十分です。これを年3回に分けて与えます。鉢の縁に沿って土を軽く掘り、鶏糞を入れて土を被せます。鉢植えでは、鶏糞特有のにおいがベランダや室内で問題になることがあるため、少し割高でも「粒状(ペレット)」に加工された「完全発酵・無臭タイプ」の鶏糞を選ぶと快適に栽培できます。

EL
私は鉢植えのみかんには、においの少ないペレット状の鶏糞を使っています。手も汚れにくく、撒く量の調整もしやすいので初心者の方には特におすすめですよ!

油かすや化成肥料との賢い使い分け

鶏糞単体でも育てることは可能ですが、プロ並みの果実を目指すなら「油かす」とのブレンドが最強の組み合わせです。鶏糞はリン酸が豊富ですが、枝葉を茂らせる窒素分はやや控えめな傾向があります。そこで、窒素分が豊富な「油かす(発酵済み)」を組み合わせることで、栄養バランス(N-P-K)を理想的な状態に整えることができます。

おすすめの配合比率は、「鶏糞:油かす = 1:1」です。これを混ぜ合わせて2月の寒肥として与えます。これにより、春の葉の成長(窒素)と、花の形成(リン酸)の両方をバランスよく促進できます。
また、樹勢が弱っているときや、葉の色が極端に悪いときは、有機肥料にこだわらず即効性のある「化成肥料(8-8-8など)」を少量追加して、素早いリカバリーを図るのも賢い方法です。有機肥料は微生物による分解が必要なため、寒い時期や緊急時には化成肥料の即効性が頼りになります。状況に応じてこれらを使い分ける柔軟性が、成功の秘訣です。

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肥料の種類 N-P-K目安 特徴 鶏糞との相性
鶏糞 3-5-3 リン酸・石灰が多い ベース肥料
油かす 5-2-1 窒素が多い ◎ 混ぜるとバランス良
化成肥料 8-8-8等 バランス型・即効性 ◯ 緊急時の回復用に

肥料焼けを防ぐための土壌管理テクニック

鶏糞を使用していて最も多い失敗が「肥料焼け」です。これを防ぐためのテクニックは「根に直接触れさせないこと」「水やりによる濃度調整」にあります。

まず施肥をする際、掘った穴に鶏糞を固まりのまま入れ、その上に直接根が乗るような植え方は厳禁です。必ず掘り上げた土と鶏糞をよく混ぜ合わせ、さらにその上に肥料の混ざっていない土を一層敷く(ワンクッション置く)ことで、根が直接高濃度の肥料に触れるのを防ぎます。

また、鶏糞は塩分濃度(EC)がやや高いため、土壌が乾燥すると塩分濃度が急上昇し、浸透圧の関係で根から水分を奪ってしまいます(塩類集積障害)。施肥をした直後は必ずたっぷりと水を与え、成分を土壌全体に拡散させることが重要です。

特に夏場に鶏糞を使用する場合は、土が乾燥しないように敷き藁(マルチング)などを併用して、土壌水分を保つ工夫をしましょう。これにより、微生物の活動も活発になり、肥料の分解もスムーズに進みます。

塩類集積(えんるいしゅうせき)とは?
土壌中の肥料成分(塩分)が過剰になり、根が水を吸えなくなる現象。「肥料あたり」とも呼ばれます。漬け物が水分を出すのと同じ原理で、植物の根から水分が抜けて枯れてしまいます。


総括:みかんの甘さを引き出す鶏糞活用は「完熟」と「適量」が鍵

この記事のまとめです。

  • 鶏糞は安価でリン酸・カルシウムが豊富なみかん栽培の強い味方
  • 実付きを良くし、果実の糖度を上げる効果が期待できる
  • 根へのガス害を防ぐため、必ず「完熟発酵鶏糞」を使用する
  • 未発酵の乾燥鶏糞はアンモニア発生や害虫のリスクがあるため避ける
  • 窒素過多は「浮き皮」の原因になるため、与えすぎには十分注意する
  • 鶏糞には石灰分が含まれるため、苦土石灰の追加は基本的に不要
  • 過剰施肥は土壌をアルカリ化させ、微量要素欠乏を招く恐れがある
  • 施肥のベストタイミングは根が動き出す前の2月〜3月(寒肥)
  • 6月の追肥は窒素を控えめにし、果実品質の低下を防ぐ
  • 地植え成木なら年間1〜2kg、鉢植えなら一回一握りが目安
  • 幹の根元ではなく、枝先の真下の土に混ぜ込むのが基本
  • 油かすと1:1で混ぜることで、窒素とリン酸のバランスが整う
  • 樹勢回復を急ぐ場合は、有機肥料ではなく化成肥料を併用する
  • 施肥後はたっぷりと水を与え、土壌の塩分濃度上昇を防ぐ
  • 自分の栽培環境に合わせて、少量から様子を見ることが成功への近道
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この記事を書いた人

植物を愛するガーデニングブロガー。
植物と暮らす楽しさを、みんなにわかりやすくお届けします。

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