鮮やかな花と丸い蓮のような葉が魅力のナスタチウム(キンレンカ)。寒さが本格化する11月下旬の現在、「まだ元気に咲いているのに、このまま枯らしてしまうのはあまりに惜しい」と感じている方も多いのではないでしょうか。
実は、ナスタチウムは適切な環境管理さえ行えば冬を越し、来春にはさらにボリュームのある株へと成長させることが可能な植物です。しかし、日本の冬、特に戸外での越冬は非常に難しく、室内の温度管理や水やりの加減には少し専門的なコツがいります。
この記事では、鉢植えの室内移動のタイミングから、失敗の少ない挿し木による更新テクニック、そして確実な種採りまで、ナスタチウムを冬越しさせるための具体的な方法と注意点を、園芸のプロの視点で徹底解説します。
この記事のポイント
- ナスタチウムは本来多年草であり、室温が5℃以上あれば越冬が可能である
- 鉢植えは霜が降りる前、最低気温が10℃を下回る頃に室内の日向へ移動する
- 地植えの場合は移植のリスクが高いため、無理に掘り上げず挿し木や採種で更新する
- 冬の水やりは根腐れを回避するため、土が完全に乾いてから数日待つ「乾かし気味」を徹底する
ナスタチウムの冬越し成功率を高める環境と基本知識
- ナスタチウムは本来多年草?日本の冬との相性
- 鉢植えを室内に取り込む際のタイミングと剪定
- 地植え株の冬越しは移植か採種かの判断基準
- 挿し木(水挿し)でコンパクトに冬を越す裏技
ナスタチウムは本来多年草?日本の冬との相性

日本の園芸店では春まきの「一年草」として扱われることが一般的なナスタチウムですが、植物学的な本来の姿は少し異なります。原産地である南米アンデス山脈の熱帯高地では、毎年花を咲かせる「非耐寒性多年草」として自生しています。つまり、寿命が一年で尽きるようにプログラムされているわけではなく、単に日本の冬の寒さ、特に霜や凍結という物理的なダメージに耐えられずに枯れてしまっているだけなのです。この本来の生理生態を正しく理解することが、冬越し成功への第一歩となります。
具体的にどの程度の温度が必要かというと、生命活動を健康に維持するためには最低でも5℃、できれば10℃以上の気温が理想的です。ナスタチウムの茎葉は水分を多く含んでおり、多肉質であるため、0℃を下回ると細胞内の水分が凍結し、細胞壁が破壊されてしまいます。
その結果、一気に溶けるようにして枯死してしまうのです。現在のような11月下旬の時期は、昼間は暖かくても夜間の冷え込みが厳しくなるため、外に出しっぱなしにしていると一夜にして急激に弱ってしまうリスクが高まります。
しかし、逆に言えば「5℃以上の温度」さえ確保できれば、冬の間も青々とした葉を保つことができ、室内環境が良ければチラホラと花を咲かせることさえあります。ただし、近年人気のある「斑入り品種」などは、一般的な緑葉の品種よりも葉緑素が少なく光合成能力が低いため、やや寒さに弱い傾向があります。より慎重な温度管理が求められるでしょう。ご自宅の環境で、夜間も含めて5℃以上を安定してキープできる場所があるかどうかが、冬越し挑戦の大きな分かれ道となります。
冬越し可能な温度の目安
- 10℃以上: 葉色も良く、ゆっくりと成長し開花することもある理想的な環境。
- 5℃〜10℃: 成長は止まるが、枯れずに耐えることができるギリギリのライン。
- 0℃〜5℃: 葉が黄色くなり始め、ダメージが蓄積する危険な温度帯。
- 0℃以下: 凍結により細胞が壊死し、枯死する。
鉢植えを室内に取り込む際のタイミングと剪定

鉢植えやハンギングバスケットで育てている場合、冬越しの基本戦略は「室内の日当たりの良い場所」への移動となります。移動のタイミングとしては、天気予報を確認し、最低気温が10℃を下回る日が続くようになったら準備を始め、5℃に近づく前には完全に取り込むのがベストです。
まさに今、11月下旬から12月上旬がそのリミットと言えます。しかし、秋まで旺盛に育ったナスタチウムは茎がつる状に長く伸び、葉も茂りすぎていることが多いはずです。そのまま室内に入れると生活スペースを圧迫するだけでなく、株内部の風通しが悪くなり、カビや病害虫の温床となってしまいます。
そこで非常に重要になるのが、室内取り込み前の「切り戻し(強剪定)」です。「せっかく伸びたのにかわいそう」と思うかもしれませんが、株元から15cm〜20cm程度の長さを残して、伸びすぎた茎を思い切ってカットしてください。この時、古くなって黄色くなった葉や、傷んでいる細い茎も全て取り除きます。物理的に葉の数を減らすことで、植物からの「蒸散(葉から水分が逃げること)」を抑え、根が吸い上げる水分量とのバランスを取る効果があります。また、コンパクトに仕立て直すことで、室内の限られたスペースでも管理しやすくなり、目が行き届くようになります。
剪定を行う際は、必ず清潔なハサミを使用してください。ナスタチウムの茎は水分が多く非常に柔らかいため、切り口から雑菌が侵入しやすく、そこから腐敗が始まる性質があります。
アルコール消毒した、スパッと切れ味の良いハサミで切り、切り口を早めに乾かすように意識すると良いでしょう。もし、株元に新しい小さな芽(新芽)が出ている場合は、その芽を大切に残すように切ると、室内環境に馴染んだ後にスムーズに成長を再開してくれます。
EL地植え株の冬越しは移植か採種かの判断基準


花壇や家庭菜園の畑に地植えしているナスタチウムの場合、そのままの状態で冬を越すのは、霜が全く降りない沖縄や一部の温暖な海岸沿いを除いて、基本的には不可能です。不織布やビニールトンネルで保温する方法も考えられますが、ナスタチウムは多湿を嫌う性質があるため、密閉された空間で蒸れて腐ってしまうリスクが高く、あまり推奨できません。
そのため、現実的な選択肢は「鉢上げ(移植)」をして室内に入れるか、「採種(種取り)」をして世代交代させるかの二択になります。
「鉢上げ」は、地植えの株を掘り上げて鉢に移し、室内で管理する方法です。しかし、ナスタチウムは直根性(太い根がまっすぐ伸びる性質)に近い根の張り方をしており、移植を極端に嫌う植物の代表格です。大きく育った株の根を傷つけずに掘り上げるのはプロでも至難の業で、移植後に根が水を吸えなくなり、枯れてしまうことが多々あります。もし愛着があってどうしても鉢上げに挑戦するなら、根鉢(根と土の塊)を絶対に崩さないように大きく掘り取り、地上部を半分以下に剪定して、根と葉のバランスを整える必要があります。
リスクの高い鉢上げよりも、現実的でおすすめなのが「採種」または自然にこぼれ種で更新させる方法です。花後にできたシワシワの種を採取し、紙袋に入れて冷暗所で保管し、来年の春(八重桜が散る頃)に再び蒔くのが最も確実です。
あるいは、次項で紹介する「挿し木」によって、親株のクローンを作って小さな苗として冬越しさせる方法が、スペース的にも労力的にも最も効率的かもしれません。親株に特別な思い入れがある場合は別ですが、基本的には地植え株は「一年草」として割り切り、次世代へ命を繋ぐ形をとるのが賢明な園芸家の判断と言えます。
挿し木(水挿し)でコンパクトに冬を越す裏技


「大きな鉢を室内に置くスペースがない」「地植えの株を室内で維持したいけれど掘り上げは失敗しそう」という場合に最適なのが、挿し木(さしき)による冬越しテクニックです。ナスタチウムは生命力が非常に強く、茎の一部から容易に発根するため、小さな苗の状態にして冬を越させるのが非常にスマートな方法です。特に、土を使わない「水挿し」でもコップ1つで簡単に根が出るため、キッチンやリビングで清潔に管理できるのが大きなメリットです。
手順は驚くほど簡単です。元気な茎の先端を10cm〜15cmほどカットし、水に浸かる部分の下葉を取り除きます。これを水を入れたコップやガラス瓶に挿しておくだけです。
置き場所は室内の明るい窓辺(直射日光が当たりすぎない場所)が適しています。水は腐敗を防ぐために2〜3日に1回交換し、常に清潔な状態を保ってください。室温にもよりますが、早ければ1週間から10日ほどで白い根が伸びてきます。
根が十分に伸びたら、そのまま水耕栽培として春まで維持することも可能ですし、小さめのポットに土を入れて植え付けることもできます。
土に植え替える場合は、肥料分の少ない清潔な「種まき・挿し木用の土」や「赤玉土(小粒)」を使用し、根を傷めないように優しく植え付けます。この方法なら、手のひらサイズのスペースで冬越しが可能ですし、万が一親株が寒さで枯れてしまっても、バックアップとして機能します。
お気に入りの花色の株を確実に残したい場合は、ぜひこの時期に予備として数本の挿し木を作っておくことを強くおすすめします。
水挿し成功のコツ
- 容器: 透明なガラス容器を使うと発根の様子が見えて管理しやすく、インテリア性も高い。
- 水温: 水が冷たすぎると発根が遅れるため、汲み置きの水かぬるま湯(20℃前後)を使うと良い。
- 発根促進剤: なくても発根するが、「メネデール」などを数滴垂らすと成功率が格段に上がる。
冬のナスタチウムを枯らさない管理と春の準備
- 冬の水やりは「控えめ」が鉄則である理由
- 日照不足による徒長を防ぐ置き場所の選び方
- 室内でも発生するアブラムシやハダニの対策
- 春の開花に向けた肥料の与え方と植え替え
冬の水やりは「控えめ」が鉄則である理由


冬越しの失敗原因で寒さの次に多いのが、実は「水のやりすぎ」による根腐れです。冬の室内、特に人がいない時間帯や夜間は室温が下がり、植物の活性が低下します。そのため、水の吸い上げも非常に緩やかになります。そんな状態で夏場と同じような感覚で水を与え続けると、鉢土が常に湿った状態になり、根が呼吸できずに窒息して腐ってしまいます。ナスタチウムの茎葉がブヨブヨと水っぽくなって溶けるように枯れた場合、それはほぼ間違いなく水のやりすぎが原因です。
具体的な水やりのタイミングは、「土の表面が乾いてから、さらに2〜3日待ってから」を目安にします。指で土を触ってみて、表面だけでなく中までしっかり乾いているか確認するのも良いでしょう。ナスタチウムは多肉質で水分を蓄えられるため、葉が少ししんなりとして水不足のサインを出してから与えても遅くはありません。また、水を与える時間帯も重要です。夕方や夜に水やりをすると、夜間の冷え込みで鉢内の水分が冷えすぎ、根を傷める原因になります。必ず晴れた日の午前中、気温が上がってくる時間帯に与えるようにしましょう。
水やりの際は、鉢底から流れ出るまでたっぷりと与えますが、受け皿に溜まった水は放置せずに必ず捨ててください。これが残っていると、鉢底の土が過湿になり、根腐れを助長します。
「乾かし気味に育てる」ことは、ナスタチウムの耐寒性を高めることにも繋がります。植物体内の水分濃度が高まり、樹液が濃くなることで凍結しにくくなるためです。冬の間は、少しスパルタ気味に管理するくらいが、ナスタチウムにとっては丁度よい愛情なのです。
日照不足による徒長を防ぐ置き場所の選び方


ナスタチウムは太陽が大好きです。冬の室内管理でよくある悩みが、茎がヒョロヒョロと弱々しく伸びてしまう徒長(とちょう)という現象です。これは、光量が不足しているために、植物が少しでも多くの光を求めて無理やり茎を伸ばそうとする生理反応です。徒長した株は見た目が悪いだけでなく、組織が軟弱になるため病気にかかりやすく、春になっても良い花を咲かせることができません。節と節の間隔が間延びしてきたら、それは光不足のサインです。
徒長を防ぐためには、室内の中でも「最も日当たりの良い南側の窓辺」に置くことが基本です。冬の日差しは弱いため、レースのカーテン越しではなく、ガラス越しに直射日光を当てても葉焼けの心配はほとんどありません。ただし、窓際は夜間に放射冷却で急激に温度が下がる「コールドドラフト」が発生しやすい場所でもあります。昼間は窓際に置き、夕方以降は厚手のカーテンの内側(部屋側)に入れるか、窓から少し離れた場所に移動させるという、こまめな配慮が必要です。
また、植物は光の来る方向に向かって伸びる性質(屈光性)があるため、ずっと同じ向きに置いていると株が光の方へ傾いてしまいます。一週間に一度は鉢を180度回転させ、満遍なく光が当たるようにすると、バランスの良い美しい株姿を保てます。
もし、どうしても日当たりが確保できない環境の場合は、植物育成用のLEDライトを補助的に使用するのも非常に効果的です。光合成を促進させることで、ガッチリとした健康的な株を維持することができます。
室内でも発生するアブラムシやハダニの対策


「冬だから虫はいないだろう」と油断してはいけません。人間にとって温かく快適な室内は、害虫にとっても天国です。特に冬のナスタチウムにつきやすいのが「アブラムシ」と「ハダニ」です。アブラムシは新芽や茎の柔らかい部分に群がり吸汁し、ウイルス病を媒介することもあります。一方、ハダニは乾燥した環境を好み、葉の裏に寄生して養分を吸い、葉の色を白っぽく掠れさせます。冬の室内は暖房器具の使用により空気が乾燥しがちなので、まさにハダニが大発生しやすい環境なのです。
対策の基本は「日々の観察」です。水やりの際に、葉の裏や新芽の周りをチェックする癖をつけましょう。もしアブラムシを見つけたら、数が少ないうちは粘着テープでペタペタと取り除くか、濡らしたティッシュで拭き取ります。
大量発生してしまった場合は、室内でも使える食品成分由来(デンプンや油脂など)の殺虫殺菌剤を使用するのが安心です。化学農薬を使いたくない場合でも、これらの自然派薬剤なら抵抗なく使えるでしょう。
ハダニの予防には「葉水(はみず)」が効果的です。霧吹きで葉の表だけでなく裏側にも水をかけることで、周囲の湿度を上げ、乾燥を嫌うハダニの発生を抑制できます。ただし、先述したように過湿は禁物なので、葉水は午前中の暖かい時間に行い、夜までには乾くように調整してください。また、風通しの悪さも害虫を招く原因となります。天気の良い暖かい日の昼間には、少し窓を開けて空気を入れ替えたり、サーキュレーターで室内の空気をやわらかく循環させたりすることも、立派な害虫対策となります。
春の開花に向けた肥料の与え方と植え替え


無事に冬を越し、3月に入って気温が上昇し始めると、ナスタチウムは再び成長を始めます。この時期になったら、冬越しの「耐えるモード」から、春の「成長モード」へと管理を切り替えます。まず肥料についてですが、真冬の間(12月〜2月)は、植物の成長がほぼ止まっているため、肥料は一切不要です。この時期に良かれと思って肥料を与えると、根が吸収できずに土の中に成分が残り、根を傷める「肥料焼け」の原因となります。
肥料を開始するのは、新芽が活発に動き出し、桜の便りが聞こえ始める3月中旬頃からです。最初は薄めの液体肥料を2週間に1回程度与え、様子を見ます。ナスタチウムは元々やせ地でも育つハングリーな植物なので、窒素分が多い肥料を与えすぎると、葉ばかりが巨大化して花が咲かない「ツルボケ」になってしまいます。
リン酸分が多めの、花用の肥料を規定量よりもやや薄めに希釈して与えるのが、花数を増やすコツです。
根が鉢いっぱいに回っているようであれば、ひと回り大きな鉢への植え替えもこの時期に行います。冬越しさせた株は根元が木質化して古くなっていることがあるため、新しい用土に植え替えることで根の更新を促し、株をリフレッシュさせます。
水挿しで冬越しさせた小さな苗も、このタイミングで定植すると良いでしょう。遅霜の心配がなくなる4月中旬以降には、再び屋外に出して、初夏まで満開の花を楽しむことができます。
この春の準備こそが、冬越しの苦労が報われる瞬間です。
総括:ナスタチウムの冬越しは温度確保と「乾かし気味」の管理が成功の鍵
この記事のまとめです。
- ナスタチウムは本来多年草であり、5℃〜10℃を保てば越冬できる。
- 日本の冬の屋外放置は枯死の原因となるため、11月中に室内へ取り込む。
- 鉢植えを室内に移す際は、蒸散を抑えるために茎を半分程度に切り戻す。
- 地植えの株は移植が難しいため、無理に掘り上げず採種か挿し木で更新する。
- 挿し木(水挿し)は省スペースで管理でき、成功率も高いおすすめの方法である。
- 冬の水やりは土が完全に乾いてから数日待って行い、根腐れを徹底的に防ぐ。
- 水やりは必ず晴れた日の午前中に行い、夜間の凍結や冷え込みを回避する。
- 受け皿に溜まった水は放置せず、すぐに捨てて過湿を防ぐ。
- 日照不足は徒長の原因になるため、南側の窓辺など一番明るい場所に置く。
- 一方向からの光で株が傾かないよう、週に一度は鉢を回転させる。
- 室内は乾燥しやすくハダニが発生しやすいため、適度な葉水で予防する。
- アブラムシなどの害虫は早期発見が重要であり、日々の観察を怠らない。
- 真冬の間は肥料を与えず、植物を休ませることが重要である。
- 3月に入り新芽が動き出してから、薄めの肥料と植え替えを開始する。
- 窒素過多は葉ばかり茂る原因になるため、春の施肥はリン酸成分を重視する。









