「ジギタリスを植えっぱなしにしたい」そう思って検索されたのではないでしょうか。イングリッシュガーデンの定番ですが、すぐに枯れる、二年草だ、と聞いて混乱している方も多いはずです。ご安心ください。ジギタリスは「植えっぱなし」にできます。ただし、それには品種の選び方と花が終わった後の管理に、専門的なコツが必要です。この記事では、宿根草タイプと二年草タイプの違いから、こぼれ種での増やし方、安全な管理に欠かせない毒性の知識まで、専門家が徹底解説します。
- ジギタリスは品種と管理次第で「植えっぱなし」が可能
- 二年草は「こぼれ種」で毎年咲かせられる
- 宿根草・ハイブリッド品種は真の「植えっぱなし」向き
- 全草に毒性があるため取り扱いに注意が必要
ジギタリスを植えっぱなしにできる?専門家が教える真実
- 結論:「植えっぱなし」は品種と管理次第で可能
- ジギタリスの「二年草」と「宿根草」の違い
- 注目すべきハイブリッド品種(宿根草タイプ)
- 危険!全草有毒のジギタリスの基本知識
- 【早見表】ジギタリスの主な種類と「植えっぱなし」管理法
結論:「植えっぱなし」は品種と管理次第で可能

多くの方が「ジギタリスは植えっぱなしにできない」と誤解される原因は、最も有名で広く流通している種がジギタリス・プルプレア(Digitalis purpurea)という「二年草」だからです。二年草は、種をまいた1年目は葉だけを茂らせて株を充実させ、2年目に花を咲かせて種をつけ、その後は枯れてしまうライフサイクルを持っています。そのため、単に「植えっぱなし」にしても、2年目の開花後には株が消えてしまうのです。
しかし、ご安心ください。ガーデニングの世界で「ジギタリスを植えっぱなしにする」ことは、3つの異なる方法によって実現されています。1つ目は、この二年草の性質を逆手に取り、花後にあえて「こぼれ種」で増やす方法。2つ目は、もともと「宿根草」の性質を持つ、プルプレア種以外のジギタリスを選ぶ方法。そして3つ目が、近年の育種技術で生まれた「宿根タイプのハイブリッド品種」を選ぶ方法です。
どの方法を選ぶかによって、花後の管理や手入れの仕方がまったく異なります。あなたの理想のガーデンライフに合った方法を見つけることが、ジギタリスを長く楽しむための最初のステップです。
- 二年草(プルプレア種):こぼれ種で自然に更新させ、毎年咲いているように見せる。
- 宿根草(原種):もともと多年草の性質を持つ種(D. luteaなど)を選び、株を育てる。
- ハイブリッド(交配種):F1品種など、宿根性を持つように改良された園芸品種を育てる。
ジギタリスの「二年草」と「宿根草」の違い

ジギタリス属(Digitalis)は、約20種が知られる多様な植物群です。これを園芸的に「植えっぱなし」にできるかどうかで分けると、「二年草」タイプと「宿根草」タイプに大別できます。
二年草(Biennial)タイプ
代表は、イングリッシュガーデンの主役ともいえるジギタリス・プルプレア(D. purpurea)です。単に「ジギタリス」と言うと、多くの場合この種を指します。このタイプは、花を咲かせるために冬の低温に遭う「春化(バーナリゼーション)」が必要です。そのため、秋に種をまくか苗を植えると、1年目はロゼット状(地面に張り付くような形)の葉で冬を越し、2年目の春に花茎を伸ばして開花し、種をつけて枯死します。つまり、株そのものは2年で寿命を迎えるため、株を「植えっぱなし」にして維持することはできません。
宿根草(Perennial)タイプ
一方、もともと「宿根草(多年草)」の性質を持つジギタリスも存在します。代表的なのは、黄色の花を咲かせるジギタリス・グランディフローラ(D. grandiflora)やジギタリス・ルテア(D. lutea)などです。これらはプルプレア種に比べると派手さはありませんが、ルテア種は短寿命の宿根草であるため寿命が有限であるものの、条件が良ければ株が枯れずに数年間花を咲かせます。ルテア種は非常に丈夫で、こぼれ種でもよく増えるため、日本の環境でも育てやすい宿根草として知られています。これらは、まさに「植えっぱなし」にできるジギタリスと言えるでしょう。
EL注目すべきハイブリッド品種(宿根草タイプ)


「二年草のプルプレア種のような華やかさが欲しい、でも宿根草のように毎年咲いてほしい」。そんなガーデナーの願いに応えるため、近年、さまざまな種間交雑によって「宿根性を持つハイブリッド品種」が多数開発されています。これらは「スーパージギタリス」などと呼ばれることもあり、従来のジギタリスの常識を覆す性質を持っています。
代表的な品種に、タキイ種苗から出ている「イルミネーション」シリーズがあります。例えば「イルミネーション フレイム」は、プルプレア種とは異なる種を交配して作られ、多年草の性質を持ちます。さらに重要な特徴として、これらの多くは「不稔性(ふねんせい)」、つまり種ができないように作られています。
種ができないと、株は種子を作るためにエネルギーを浪費することがありません。その結果、開花期が非常に長くなり、適切な管理をすれば次々と花を咲かせ、株自体も宿根して翌年また花を咲かせます。これこそが、現代の育種技術が生んだ「植えっぱなし」に最適解ともいえるジギタリスです。ただし、種ができないということは、「こぼれ種」では増やせない、ということも意味します。管理方法が二年草タイプとは正反対になるため、注意が必要です。
- 宿根草(多年草)の性質を持つ。
- 開花期間が長い。
- 不稔性(種ができない)の品種が多く、こぼれ種では増えない。
- 株分けや挿し木で増やすが、PVP(種苗法)の対象品種に注意。
危険!全草有毒のジギタリスの基本知識


ジギタリスを庭に迎える上で、その美しさと同じくらい強く認識しておかなければならないのが、「猛毒」であるという事実です。ジギタリスは全草(葉、花、茎、根、種子)に「強心配糖体(きょうしんはいとうたい)」と呼ばれる有毒成分、特にジギトキシンなどを含んでいます。
これはもともと心不全の治療薬(強心薬)として利用されてきた成分であり、その薬効と毒性は表裏一体です。誤って口にすると、胃腸障害、嘔吐、下痢、頭痛、めまい、不整脈などを引き起こし、重篤な場合は心臓機能が停止し、死に至る可能性があります。厚生労働省も「自然毒のリスクプロファイル」の中で注意喚起を行っているほどです。
特に、「植えっぱなし」にしてこぼれ種で増やす場合、予期しない場所に芽を出すことがあります。小さなお子様や、犬、猫などのペットがいるご家庭では、絶対に誤食しないよう、植え場所を厳重に管理し、作業の際は必ず手袋を着用してください。ジギタリスに触れた手で食べ物や口に触れるのも危険です。この危険性を理解し、安全に管理することこそ、ジギタリスを育てる専門家としての第一歩です。
- 全草(花、葉、茎、根、種)に猛毒があります。
- 小さなお子様やペット(犬、猫など)が絶対に触れたり、口にしたりしない場所に植えてください。
- 剪定や花がら摘みなどの作業時は、必ず園芸用手袋を着用してください。
- 作業後に手で目をこすったり、そのまま飲食したりせず、必ず石鹸で手を洗い流してください。
【早見表】ジギタリスの主な種類と「植えっぱなし」管理法


ここまで解説したジギタリスのタイプ別の特徴と、「植えっぱなし」にするための管理方法を一覧表にまとめます。自分が育てている、あるいはこれから育てたいジギタリスがどれに該当するのかを確認してみましょう。
| タイプ | 主な種類・品種 | 寿命 | 「植えっぱなし」の方法 | 花後の管理 |
|---|---|---|---|---|
| 二年草 | D. purpurea(プルプレア) (例:‘F1 キャメロット’) |
2年 | こぼれ種 (親株は枯れるが、子孫が育つ) |
種を採るため、花茎を残す。 |
| 宿根草(原種) | D. lutea(ルテア) D. grandiflora(グランディフローラ) |
多年 | 株の維持・こぼれ種 (親株が宿根し、種でも増える) |
株の消耗を防ぐため切り戻す。 (種を採るなら残す選択も可) |
| ハイブリッド(宿根) | ‘イルミネーション’シリーズ ‘ベリーカナリー’など |
多年 | 株の維持 (親株を宿根させる) |
必須:種ができないため、 花後に必ず切り戻す。 |
ジギタリスを植えっぱなしにする具体的な管理テクニック
- 二年草タイプを「こぼれ種」で毎年咲せる方法
- 花後の管理:二番花を咲かせ株を長持ちさせる「切り戻し」
- 宿根草・ハイブリッド品種の夏越しと冬越し
- 植え付けの基本:土壌、肥料、水やり
- 注意!種苗法(PVP)と「増殖」のルール
二年草タイプを「こぼれ種」で毎年咲せる方法


最も一般的でありながら、多くの人が知らない「植えっぱなし」テクニックが、二年草(D. purpurea)のこぼれ種を利用する方法です。これは、株自体を宿根させるのではなく、毎年新しい世代の株に更新させていく、自然任せの管理法です。
やり方は非常にシンプルです。5月から6月にかけて花が咲き終わった後、花茎を切り取らずにそのまま放置します。通常、花が終わると株の消耗を防ぐために花茎を切りますが、こぼれ種を狙う場合は、種が熟すまで待たなければなりません。夏が近づくと、花が咲いていた部分にびっしりと小さな鞘(さや)ができ、それが茶色く乾燥してきます。秋風が吹く頃、この鞘が弾けて、中から粉のように細かい種が周囲にばらまかれます。
この種が地面に落ち、翌年に発芽して1年目のロゼット葉となり、そのまた翌年に花を咲かせます。このサイクルがうまく回れば、毎年どこかしらでジギタリスが咲いている、ナチュラルなイングリッシュガーデン風の景色が完成します。ポイントは、種のベッド(苗床)となる株元の雑草を軽く取り除き、種が地面に落ちやすいようにしておくことです。ただし、こぼれ種は親とまったく同じ花が咲くとは限らない点も、自然任せの楽しみとして捉えましょう。
花後の管理:二番花を咲かせ株を長持ちさせる「切り戻し」


こぼれ種を狙うのとは正反対の管理が、花後の「切り戻し」です。これは、宿根草タイプやハイブリッド品種を「植えっぱなし」にする場合、また二年草タイプで二番花を楽しみたい場合の必須作業となります。
ジギタリスは、花穂(かすい)の下から上へと咲き上がっていきます。一番上の蕾が咲き終わるか、花穂全体の3分の2ほどが咲き終わったタイミングが、切り戻しのサインです。この時、花茎をためらわずに地際(根元)からバッサリと切り取ります。こうすることで、株が「種子を作る」という生殖成長から、「株を維持する」という栄養成長に切り替わります。
株に体力が残っていれば、切り取った花茎の脇から新たな脇芽が伸び、一回り小さな「二番花」を咲かせてくれることがあります。これは、特にハイブリッド品種で顕著です。種ができない(不稔性)ハイブリッド品種の場合、花茎を残しておいても種はできず、株が無駄に消耗するだけです。そのため、ハイブリッド品種の花後の切り戻しは「必須作業」と覚えてください。この一手間が、株を夏越しさせ、宿根させるための重要な鍵となります。



宿根草・ハイブリッド品種の夏越しと冬越し


ジギタリスの「植えっぱなし」を阻む最大の敵は、実は冬の寒さではありません。ジギタリスはもともと寒さに強い植物(耐寒性多年草)であり、多くの地域で戸外での冬越しが可能です。本当の敵、それは日本の「夏の高温多湿」です。
特に、宿根草タイプやハイブリッド品種を「株として」夏越しさせ、翌年も咲かせるためには、植え場所がすべてを決めると言っても過言ではありません。ジギタリスは、強い西日や直射日光、そして何より土壌の蒸れを極端に嫌います。
夏越しのポイント
植え場所は、「水はけが良く、風通しの良い、明るい半日陰」が絶対条件です。具体的には、午前中だけ日が当たり、午後は建物の陰や落葉樹の陰になるような場所が最適です。マルチング(株元をバークチップなどで覆うこと)で地温の上昇を抑えるのも効果的です。梅雨の長雨で株元が腐らないよう、水はけの悪い土壌は徹底的に改良(後述)してください。夏越しさえ成功すれば、冬越しは特に防寒対策をしなくても、地上部が枯れるかロゼット状になって乗り切ってくれます。
ジギタリスの宿根化は、冬の管理ではなく「夏の管理」で決まります。いかに涼しく、蒸れさせずに夏を越させるかが専門家の腕の見せ所です。
植え付けの基本:土壌、肥料、水やり


ジギタリスを「植えっぱなし」にするためには、植え付け時の初期設定が非常に重要です。特に夏越しを見据えた「土壌作り」は、妥協できません。
土壌(用土)
ジギタリスは水はけと通気性に富み、適度な保水性のある土壌を好みます。日本の粘土質の庭土の場合は、そのまま植えると梅雨時期に根腐れしやすいため、必ず土壌改良が必要です。植え穴を深く掘り、腐葉土や堆肥を3割、さらに軽石やパーライトを1〜2割ほど混ぜ込み、土をふかふかにしておきましょう。鉢植えの場合は、市販の草花用培養土でも育ちますが、よりこだわるなら「赤玉土小粒6:腐葉土3:軽石1」のような、水はけを重視した配合が理想的です。
肥料
植え付け時に、元肥(もとごえ)として緩効性化成肥料を用土に混ぜ込みます。ジギタリスは極端な多肥を好みませんが、花を咲かせる体力は必要です。追肥(ついひ)は、株が再び成長を始める春の3月頃に、株元に同じ緩効性肥料を与えます。さらに、蕾が見え始める開花前に、リン酸が豊富な草花用の液体肥料を週に1回程度施すと、見事な花穂が上がります。
水やり
地植えの場合、根付いてしまえば基本的に降雨に任せて大丈夫です。ただし、真夏に乾燥が続く場合は、朝夕の涼しい時間帯に与えてください。鉢植えの場合は、土の表面がよく乾いたら、鉢底から流れ出るまでたっぷりと与えるのが基本です。ジギタリスは「乾燥」にはある程度耐えますが、「過湿(特に蒸れ)」には非常に弱いことを覚えておきましょう。
注意!種苗法(PVP)と「増殖」のルール
宿根草タイプやハイブリッド品種を「植えっぱなし」にしていると、株が大きくなってきます。そこで「株分け」や「挿し芽」で増やしたくなるのがガーデナーの常ですが、ここで専門家として法的な注意喚起をしなければなりません。
「イルミネーション」シリーズのような、育種家が長い時間とコストをかけて開発した優良なハイブリッド品種の多くは、「種苗法(しゅびょうほう)」によって権利が保護されています。これらの苗には「PVP(Plant Variety Protection)」や「登録品種」といった表示がされているはずです。
登録品種を、権利者の許諾なく業として(=販売目的で)増殖することは固く禁じられています。ただし、2022年4月からの法改正により、登録品種の自家増殖は原則として育成者権者の許諾が必要となりました。ただし、個人的又は家庭的利用を目的とした増殖は許諾の対象外です。増殖したものを販売目的で他者に譲渡することは禁止ですが、純粋に個人的・家庭的利用の範囲内での増殖は認められています。
「植えっぱなし」で楽しむ分には何の問題もありませんが、お気に入りのハイブリッド品種を増やしたいと思った場合は、その品種がPVP対象でないか、自家増殖が許可されているかを必ず確認してください。知らなかったでは済まされない、大切なルールです。
- 登録品種(PVPマーク付き)は、権利者の許可なく増殖(株分け・挿し木など)できません。
- これは趣味の園芸(自家増殖)も原則対象となります。
- 増殖したものを無償で譲渡(あげること)も禁止です。
- ルールを守って、育種家の権利を尊重しましょう。
総括:ジギタリスの「植えっぱなし」は3つの道から選べる
この記事のまとめです。
- ジギタリスの「植えっぱなし」は品種と管理で可能である
- 最も一般的なプルプレア種(D. purpurea)は二年草である
- 二年草は1年目に葉を茂らせ、2年目に開花・結実し枯れる
- 二年草を「植えっぱなし」にするには「こぼれ種」を利用する
- こぼれ種を狙う場合、花後の花茎は切らずに残す
- 宿根草タイプ(D. luteaなど)は本来「植えっぱなし」が可能である
- 近年は「ハイブリッド品種」が宿根草として人気が高い
- ハイブリッド品種は種ができない(不稔性)ものが多い
- 宿根草・ハイブリッドは花後に「切り戻し」で二番花を狙う
- 切り戻しは株の消耗を防ぎ、長持ちさせる効果がある
- ジギタリスは寒さより日本の高温多湿な夏が苦手である
- 夏越しのため、西日を避けた半日陰と水はけの良い土が必須である
- 全草に強心配糖体を含む猛毒植物である
- 子どもやペットがいる家庭では、取り扱いに細心の注意が必要である
- 登録品種(PVP)の無断増殖は種苗法で禁じられている











