
家庭菜園で落花生を育てる際、ただ苗を植えて放っておくだけでは、思うように収穫量が増えないことがあります。実は、落花生栽培において「摘心(てきしん)」という作業を行うかどうかが、収穫のボリュームを大きく左右する重要な分岐点となります。
摘心とは、成長の勢いが強い主茎の先端をカットすることで、脇芽の発生を促す技術です。
この記事では、2025年現在の最新の栽培知見に基づき、落花生栽培における摘心の具体的なタイミングや正しいやり方、そして収穫を最大限に引き出すための土寄せや病害虫対策まで、専門的な視点から徹底的に解説します。
この記事を読めば、初心者の方でも迷うことなく摘心を実践でき、秋には驚くほどたくさんの落花生を収穫できるようになるはずです。
この記事のポイント
- 落花生の摘心が収穫量に与えるメカニズムがわかります
- 失敗しないための最適な摘心のタイミングと判断基準が学べます
- 品種(立ち型・這い型)ごとの特性に合わせた適切な管理方法が理解できます
- 収穫から保存まで、プロが実践する高品質な育て方のコツが身につきます

落花生栽培で収穫量を増やす摘心のコツ
- 摘心とは何か?その目的と落花生への効果
- 摘心を行うのに最適なタイミングと判断基準
- 初心者でも失敗しない具体的な摘心のやり方
- 摘心をすべき品種と不要な品種の見分け方
- 摘心後のケアで成長を加速させるポイント
摘心とは何か?その目的と落花生への効果
摘心とは、植物のメインとなる茎、いわゆる主茎(しゅけい)の先端部分を切り取る作業のことを指します。なぜこの作業が落花生栽培において重要視されるのか、その理由は植物の生理生態である「頂芽優勢(ちょうがゆうせい)」にあります。植物には、主茎の先端にある芽が優先的に成長しようとエネルギーを独占する性質があります。そのまま放置すると、一本の茎だけがひょろひょろと上に伸びてしまい、肝心の実をつけるための「側枝(そくし)」が十分に発達しません。
落花生の最大の特徴は、主茎にはほとんど花が咲かず、その脇から出てくる側枝に多くの花を咲かせ、実をつけるという点です。そのため、あえて主茎の先端を摘み取ることで頂芽優勢を強制的に解除し、成長エネルギーを脇芽へと分散させる必要があります。これにより、側枝が力強く、かつ数多く発生するようになります。側枝の数が増えることは、そのまま花が咲く場所が増えることを意味し、最終的な収穫量に直結するわけです。

また、摘心を行うことで株全体が横に広がり、地面に近い位置で多くの花が展開されます。落花生は花が咲いた後、「子房柄(しぼうへい)」という管が地面に潜り込んで実を作るため、地面に近い場所で多くの枝が展開している状態は、受精後の潜り込みをスムーズにし、収穫効率を最大化させる理想的な形状だと言えます。
摘心を行うのに最適なタイミングと判断基準
落花生の摘心において、最も重要なのは「いつ行うか」というタイミングの判断です。早すぎると株自体の体力が不足して成長が停滞し、逆に遅すぎると側枝が伸びる時間が足りず、摘心の恩恵を十分に受けられません。一般的に、摘心を行うベストな目安は、主茎の本葉が10枚から12枚程度になった頃、あるいは主茎の高さが20cmから30cmほどに成長したタイミングです。
この時期は株がしっかりと根を張り、光合成能力が高まって、これから爆発的に枝葉を広げる「栄養成長」のピークに差し掛かる段階です。また、一番花(最初に咲く花)が咲き始める直前、あるいは数輪咲き始めた頃に作業を終えるのが理想です。
本格的な開花期に入ると、植物のエネルギーは生殖活動へとシフトするため、新しい脇芽を押し出す力が弱まってしまいます。
摘心作業のチェックリスト
- 主茎の本葉が10〜12枚に達しているか
- 主茎の高さが20〜30cm程度になっているか
- 最初の花が咲き始めているか
- 向こう2〜3日の天気予報が晴れであるか

作業を行う日は天候にも細心の注意を払ってください。雨の日や湿度の高い日に作業を行うと、切り口から雑菌が侵入し、株全体が病気に感染するリスクが高まります。必ず晴天が続く日の午前中に作業を済ませ、日光によって切り口を素早く乾燥させることが、失敗を防ぐ最大の防御策となります。
初心者でも失敗しない具体的な摘心のやり方
摘心の作業手順は非常にシンプルですが、雑に行うと株を傷め、かえって収穫量を減らす原因になります。まず、道具として清潔な「剪定ハサミ」を用意してください。指先で摘み取ることも可能ですが、茎の皮を剥いでしまったり、繊維を引きちぎって断面を汚くしてしまったりする恐れがあるため、切れ味の良いハサミでスパッと切ることを強くおすすめします。
具体的な手順は以下の通りです。
- 株の中心から垂直に伸びている一番太い「主茎」を確認します。
- 主茎の最先端にある新芽(成長点)を見極めます。
- その新芽から数えて1〜2節下の位置で、ハサミを水平に入れてカットします。
- この際、すでに伸び始めている側枝(脇から斜めに伸びる枝)を間違えて切らないよう慎重に作業してください。

ELもし、間違えて側枝を切ってしまうと収穫量が減ってしまうため、主茎を軽く手で引き寄せ、他の枝としっかり区別してから刃を当てましょう。カットした後は、切り口に特別な処理は不要ですが、心配な場合は木酢液の希釈液をスプレーしておくと殺菌効果が期待できます。
また、摘心と同時に周囲の雑草を抜いておくと、その後の脇芽の成長がよりスムーズになります。
摘心をすべき品種と不要な品種の見分け方
落花生には、茎の伸び方によって「立ち型」「這い型(プロストレート)」「半這い型」の3つのタイプがあります。摘心の効果が最も劇的に現れるのは「立ち型」の品種です。 代表的な品種の特徴を以下の表にまとめました。
| タイプ | 代表的な品種 | 摘心の必要性 | 理由・特徴 |
|---|---|---|---|
| 立ち型 | ナカテユタカ、郷の香 | 非常に有効 | 主茎が伸びやすく、側枝が少なめになるため。 |
| 這い型 | 千葉半立ち | 原則不要 | 自然に側枝が横に広がる性質が強いため。 |
| 半這い型 | おおまさり、Qなっつ | 条件付きで実施 | スペースが狭い場合や、葉が茂りすぎる場合に有効。 |


「ナカテユタカ」などの立ち型品種は、放任すると主茎ばかりが優勢になり、収穫効率が低下しやすいため摘心が強く推奨されます。一方で、最高級品種として知られる「千葉半立ち」のような這い型は、放っておいても地面を這うように枝が分岐するため、あえて摘心をする必要はありません。
「つるボケ」に注意!
窒素肥料が多すぎて葉ばかりが異常に茂る「つるボケ」の状態にある時は、這い型であっても軽く摘心をして成長の勢いを抑えることがありますが、基本的には品種の性質を優先しましょう。
栽培している品種がどちらのタイプか不明な場合は、種袋を確認するか、成長初期に茎が真上に伸びる力が強いかどうかで判断してください。近年の人気品種「おおまさり」は非常に巨大化するため、プランター栽培などでスペースを制限したい場合には摘心が有効な手段となります。
摘心後のケアで成長を加速させるポイント
摘心という作業は、植物にとっては一種の外科手術です。先端を失ったストレスから一時的に成長が鈍ることがありますが、その後の適切なケアによって、眠っていた脇芽が爆発的に伸び始めます。
摘心直後に最も重要なのは「水分管理」です。脇芽を一気に押し出すには膨大なエネルギーと水分を必要とするため、土の表面が乾いているようなら、株元にたっぷりと水を与えてください。
摘心から約1週間が経過し、脇芽が目に見えて伸び出してきたら、「追肥」と「土寄せ」の準備に入ります。落花生は根粒菌(こんりゅうきん)の働きで空気中の窒素を取り込めるため、窒素肥料は控えめで構いません。その代わりに、花芽の形成を助ける「リン酸」と、根や茎を丈夫にする「カリ」を主体とした肥料、そして何より「石灰(カルシウム)」を補給することが重要です。
石灰の重要性
落花生の殻を硬くし、中身の詰まった実を作るにはカルシウムが不可欠です。この時期に苦土石灰を株元にパラパラと撒き、軽く土と混ぜ合わせることで、実入りの悪い「空ヤヤ(殻だけで中身がない)」を防ぐことができます。


また、脇芽が伸びるスペースを確保するために、株元の土を軽くほぐしておきましょう。これにより、後に伸びてくる子房柄が土に潜りやすくなり、摘心の効果を100%収穫量に変換することが可能になります。
摘心以外に落花生の栽培を成功させる秘訣
- 花が咲いた後の土寄せと追肥の重要性
- 落花生特有の受精プロセスと子房柄の管理
- 多収穫を目指すための病害虫対策と予防法
- 収穫時期の見極め方と美味しい落花生のサイン
- 収穫後の乾燥と保存方法で味を保つコツ
花が咲いた後の土寄せと追肥の重要性
落花生栽培において、摘心と双璧をなす最重要作業が「土寄せ」です。落花生は、受粉が終わると花の付け根から「子房柄(しぼうへい)」という茶褐色のツルのようなものが伸びてきます。これが地面に突き刺さり、土の中で実を膨らませるという極めて特殊な生態を持っています。土寄せの目的は、この子房柄が土に到達するまでの距離を短くし、確実に地中へ導くことにあります。


土寄せのタイミングは、開花が始まってから約1週間〜10日後です。黄色い花が次々と咲き始めたら、株元に周囲の土を5〜10cmほどの高さに盛り上げてください。この際、単に土を寄せるだけでなく、土を柔らかくほぐしておくことがポイントです。硬く締まった土では、子房柄が地表を滑ってしまい、中に入り込むことができません。
土寄せを怠ると、せっかく咲いた花が実にならずに枯れてしまうため、収穫量が激減します。 追肥については、このタイミングでリン酸成分の多い有機肥料や石灰を再度少量施すと効果的です。ただし、肥料が直接葉や茎に触れないよう、株の周囲に円を描くように撒くのがコツです。
落花生特有の受精プロセスと子房柄の管理
落花生は「自花受粉」を行うため、虫がいなくても自分の花粉で受精できますが、その後の管理には人間の手助けが必要です。特に注意が必要なのが、「マルチ栽培」を行っている場合です。地温を上げたり雑草を抑えたりするためにビニールマルチを使用している場合、そのままでは子房柄がビニールに遮られて土に潜ることができません。
花が咲き始めたら、株元のマルチを大きく切り広げるか、思い切って全て剥がしてください。子房柄は「暗い場所」を目指して伸びる性質があるため、光を遮るビニールの上では迷走してしまいます。
また、この時期の乾燥も大敵です。土が乾燥しすぎると物理的に硬くなり、子房柄の侵入を拒んでしまいます。



子房柄が土の中に3〜5cmほど潜ると、その先端が横を向き、ようやく殻の形成が始まります。この一連のプロセスは、地上からは見えない「土の中の神秘」です。開花から子房柄の潜り込みが完了するまでの約1ヶ月間、常に土を柔らかく適度な湿り気に保つことが、多収穫への最短ルートとなります。
多収穫を目指すための病害虫対策と予防法
落花生は比較的病害虫に強い部類に入りますが、特定のトラブルには警戒が必要です。まず、栽培初期から中期にかけて発生しやすいのが「アブラムシ」です。アブラムシは新芽に群生して栄養を吸い取るだけでなく、ウイルス病を媒介して株を弱らせます。見つけ次第、粘着くんなどの物理的な防除剤や、薄めた牛乳スプレーなどで対応しましょう。
夏場の乾燥期には「ハダニ」の発生も懸念されます。葉の裏が白っぽくカスレてきたら要注意です。ハダニは水に弱いため、水やりの際に葉の裏側にも水がかかるようにする「葉水」が予防に有効です。また、土壌病害である「白絹病(しらきぬびょう)」は、株元に白い糸のようなカビが生え、急激に株を枯らせる恐れがあります。これは高温多湿の環境で発生しやすいため、水はけを良くし、風通しを確保することが大切です。
カラスとネズミの食害に厳重警戒!
収穫が近づき、土の中の実が充実してくると、カラスが非常に賢く立ち回ります。株ごと引き抜いて中身を食べてしまうため、実が太る時期(8月下旬〜)になったら、必ず防鳥ネットを設置してください。また、土の中の実はネズミに狙われることもあるため、周囲を清潔に保つことも重要です。
収穫時期の見極め方と美味しい落花生のサイン
落花生の収穫は「早すぎると未熟で甘みがなく、遅すぎると土の中で腐る」という、非常にシビアな見極めが求められます。開花から数えて、早生品種で約80〜90日、晩生品種で100〜120日が目安です。外見上のサインとしては、「下の方の葉が黄色くなり始め、株全体がやや黄色味を帯びてきたとき」が収穫の合図です。
しかし、最も確実なのは「試し掘り」です。株の端の方から数個の実を掘り出してみましょう。
- 未熟: 殻が白く、網目がほとんどない。
- 適期: 殻に浮き出ている網目(レティキュレーション)がくっきりと濃くなり、殻の内側が茶褐色になっている。
- 過熟: 殻が黒ずみ始め、中には土の中で発芽しているものもある。
自分で育てる最大の特権は、完熟直前の実を収穫して作る「ゆで落花生」です。これを味わう場合は、適期より1週間ほど早めに収穫すると、殻が柔らかく、中身がホクホクとした最高の状態で楽しめます。煎り豆にする場合は、しっかりと網目が浮き出た完熟状態のものを狙いましょう。
収穫後の乾燥と保存方法で味を保つコツ
収穫したばかりの落花生は水分量が約50%と非常に高く、そのまま放置すると数日でカビが生えてしまいます。美味しく長期保存するためには、徹底した「乾燥」が不可欠です。まず、引き抜いた株をそのまま畑に数日間放置する「地干し(じぼし)」を行います。根を上に向けて逆さに立てかけることで、太陽と風の力で予備乾燥させます。
3〜5日間の地干し後、実を株から外して本格的な乾燥に移ります。
- 実についた土を綺麗に落とします。
- 風通しの良い日陰で、ネットなどに入れて吊るします(陰干し)。
- 期間は約2週間〜1ヶ月。殻を振ってみて、中の豆が「カラカラ」と音を立てるようになれば乾燥完了です。


「ぼっち」作りとは?
プロの農家は、乾燥させるために株を円筒状に積み上げる「ぼっち」という巨大な山を作ります。家庭ではここまでする必要はありませんが、雨に当てないことが最も重要です。
十分に乾燥した落花生は、湿気を嫌うため、乾燥剤を入れた密閉容器やジップロックに入れ、冷蔵庫の野菜室で保管するのがベストです。食べる直前にフライパンで15〜20分ほど弱火で煎ることで、市販品では決して味わえない、濃厚で芳醇な香りの自家製落花生を堪能することができます。


総括:適切な摘心と管理が落花生栽培の収穫量を劇的に変える
この記事のまとめです。
- 落花生の摘心は主茎の成長を抑え、実をつける側枝を増やすために行う
- 摘心により花数が増え、最終的な収穫量が飛躍的に向上する
- 実施の目安は主茎の葉が10〜12枚、高さ20〜30cmに達した時期
- 晴天の午前中に清潔なハサミを使い、主茎の先端2〜3cmをカットする
- ナカテユタカなどの「立ち型」品種には摘心が非常に有効である
- 千葉半立ちなどの「這い型」品種は、原則として摘心の必要はない
- 摘心後は水分補給と石灰の追肥を行い、脇芽の急成長をサポートする
- 開花後の土寄せは、子房柄が土に潜るのを助けるために必須の作業
- マルチ栽培では、開花に合わせて株元のマルチを除去する必要がある
- 白絹病やアブラムシの対策には、日当たりの良さと風通しが重要
- 収穫時期は殻の網目模様がはっきり出ているかどうかを試し掘りで確認する
- 収穫後の「地干し」と「陰干し」を徹底し、水分を抜くことが保存の鍵
- 正しく乾燥させた豆を食べる直前に煎るのが、最も美味しい食べ方である








