寒さが本格化する12月、ベランダや庭のシソ(大葉)が茶色く枯れ始めているのを見て、「なんとか冬越しさせて、来年もこの株を楽しめないか」と考えていませんか?実は、シソの冬越しには植物学的な「寿命」という大きな壁が存在します。
しかし、がっかりする必要はありません。正しい知識を持てば、種の形で命をつないだり、冬の間も室内で新鮮な香りの葉を収穫したりすることは十分に可能です。この記事では、園芸のプロがシソの生理生態に基づいた「正しい冬じまいの方法」と、冬でも青々としたシソを楽しむための「本格的な室内栽培テクニック」を徹底解説します。
枯れゆくシソを前に、今あなたがすべき最適なアクションが必ず見つかります。
この記事のポイント
- シソは「一年草」であり、日本の気候では株そのものの冬越しは基本的に不可能
- 来年への命のリレーとして、自家採種(種の収穫)と適切な冷蔵保存が最も重要
- 冬に室内で栽培する場合は、既存の株ではなく「新しい種」から水耕栽培を始めるのが正解
- 冬の室内栽培成功のカギは、温度管理だけでなく「光の長さ(日長)」の調整にある

シソの冬越しは可能か?一年草の運命と命をつなぐ方法
- シソは「一年草」:冬に枯れるのは自然な寿命
- 来年のために:正しい種の採取時期と保存テクニック
- こぼれ種を活用する:放置しても来年生える?の真実
- 枯れた株の片付け方と土の再生リサイクル術
- 名残の収穫:穂ジソや実ジソを楽しみ尽くす
シソは「一年草」:冬に枯れるのは自然な寿命
残念ながら結論から申し上げますと、現在育てているシソの株そのものを冬越しさせて、来年の春にまた新芽を出させることは、日本の一般的な気候下では不可能です。これは、あなたの育て方が悪かったわけでも、肥料が足りなかったわけでもありません。
シソは植物学的に「一年草(いちねんそう)」に分類される植物だからです。
一年草とは、春に種が発芽し、夏に大きく成長して葉を茂らせ、秋に花を咲かせて種を結んだ後、冬の訪れとともに枯死するまでの一連のサイクルを1年以内で終える植物のことです。
サクラやアジサイのように毎年花を咲かせる「宿根草(しゅっこんそう)」や「花木」とは根本的に生き方が異なります。シソにとって、花を咲かせて種を作った時点で、生物としての役割は「完了」しているのです。
特にシソは寒さに非常に弱く、生育適温は20℃〜25℃です。気温が10℃を下回ると生育が停止し、5℃以下になると細胞が壊死して枯れてしまいます。たとえ温室のような環境で温度を保ったとしても、植物としての寿命が尽きているため、徐々に株は衰弱し、葉の質も硬く、香りも落ちてしまいます。12月中旬の現在、もし株が木質化して茶色くなっているなら、それは「冬越し失敗」ではなく「天寿を全うした」証拠です。感謝の気持ちを持って、次の世代(種)へのバトンタッチを考えましょう。

EL来年のために:正しい種の採取時期と保存テクニック
株の冬越しはできませんが、種を採ることで遺伝子レベルでの冬越しは可能です。自家採種は、来年も美味しいシソを楽しむための最も経済的で確実な方法です。しかし、タイミングを間違えると発芽率が下がってしまうため、注意が必要です。
種の採取に適した時期は、花が咲き終わり、房(花穂)が茶色くカラカラに乾いた頃です。房を指で軽く弾いてみて、中から黒や濃い茶色の小さな粒がポロポロと落ちてくれば収穫のサインです。
まだ房が青いうちは種が未熟ですので、焦らずに待ちましょう。
具体的な手順としては、まず晴天が2〜3日続いた乾燥した日を選びます。湿気は種の大敵です。株元から枝ごと切り取るか、房だけをハサミで切り取ります。これらを紙袋や封筒に入れ、風通しの良い日陰で1週間ほどさらに乾燥させます。
完全に乾燥したら、袋の上から軽く揉んで種を房から外し、ザルやふるいを使ってゴミを取り除きます。
ここで最も重要なのが「保存方法」です。シソの種は「休眠」という性質を持っています。冬の寒さを経験することで、「冬が過ぎた」と認識し、春の暖かさで目を覚ます準備を整えます。そのため、採取した種は乾燥剤(シリカゲル)と一緒に密閉容器(空き瓶やタッパー)に入れ、冷蔵庫の野菜室で保管してください。常温で放置すると、種が乾燥しすぎたり、温度変化で活力を失ったりして、春になっても発芽しないことがあります。冷蔵庫内は一定の低温と暗黒が保たれており、シソの種にとって理想的な冬越しの場所なのです。


種保存の鉄則リスト
- 乾燥: 採取後、紙袋で1週間以上しっかり乾燥させる。
- 選別: ゴミや未熟な種を取り除く。
- 密閉: 湿気を防ぐため、乾燥剤と共に密閉容器へ。
- 低温: 必ず冷蔵庫(野菜室推奨)で春まで保管する。
こぼれ種を活用する:放置しても来年生える?の真実
「シソは勝手に生えてくるから種採りなんて不要」という話をよく耳にします。確かに、シソは非常に生命力が強く、こぼれ種(自然に地面に落ちた種)で翌年も発芽することがよくあります。
これを「自生(じせい)」と呼びますが、これに頼る場合にはいくつか知っておくべきリスクと真実があります。
まず、こぼれ種が発芽するためには、落ちた種が適度な土に覆われ、冬の間に乾燥死せずに生き残る必要があります。プランター栽培の場合、冬の間に土をカラカラに乾かしてしまうと、中の種も死んでしまいます。
こぼれ種を期待するなら、冬の間も、週に一度程度は軽く水やりをして、土壌水分を維持する必要があります。
また、「交雑(こうざつ)」のリスクも理解しておく必要があります。もしご近所で赤ジソが育てられていたり、野生のエゴマが生えていたりする場合、それらの花粉と受粉している可能性があります。
シソは交雑しやすく、青ジソと赤ジソが交配すると、翌年は香りが悪く、葉の色も中途半端に濁った(斑点状の)個体が生まれることが多々あります。「マダラジソ」と呼ばれるもので、食用には適しません。
さらに、こぼれ種は発芽位置を選べません。思わぬ場所から大量に発芽し、間引きの手間が非常にかかることもあります。確実に来年も美味しいシソを、狙った場所で育てたいのであれば、やはり意図的に種を採取し、冷蔵庫で管理して、春(4月〜5月)に清潔な土に撒くことを強くおすすめします。
それがプロの園芸家としての確実なアドバイスです。
枯れた株の片付け方と土の再生リサイクル術


12月に入り、完全に枯れてしまったシソの株は、そのまま放置せずに早めに片付けることが重要です。枯れた植物体は、病害虫の越冬場所になるからです。特にシソにつきやすいハダニやアブラムシの卵、あるいはうどんこ病の菌などが、枯れ葉や茎に残っている可能性があります。
片付けの手順としては、まず地際で茎を切り取ります。地上部は燃えるゴミとして処分してください(病気の保菌リスクがあるため、コンポストに入れるのは避けた方が無難です)。
次に、土の中に残った「根」の処理です。シソの根は細かくびっしりと張るため、そのままでは次の植物を植える際に邪魔になります。
プランターの場合は、土をひっくり返し、大きな根の塊を取り除きます。さらに、ふるいにかけて細かい根やゴミを除去します。この古くなった土は、栄養分がシソに吸い尽くされ、団粒構造(植物が育ちやすい土の粒)も崩れている状態です。そのまま使い回すと、次の植物の育ちが悪くなる「連作障害」の原因にもなります。
土を再生させるには、市販の「土の再生材(リサイクル材)」を混ぜ込むのが最も手軽で効果的です。これらには、失われた腐葉土や堆肥、微生物、肥料分が含まれています。さらに、冬の寒さを利用して「寒ざらし」を行うのも効果的です。
再生材を混ぜた土を黒いビニール袋に入れ、日当たりの良い場所に1ヶ月ほど置いておくと、太陽熱で土の中の病原菌や害虫の卵を消毒できます。こうしてリセットした土は、春の種まきや、冬の間の別の野菜(ホウレンソウやコマツナなど)の栽培に活用できます。
片付け時の注意点
- 枯れた株を庭の隅に積んでおくのはNG(害虫の温床になります)。
- 根を抜いた土は必ず天日干し等の消毒を行うこと。
- シソ科の植物(バジルやミントなど)を続けて植えないこと(連作障害回避)。
名残の収穫:穂ジソや実ジソを楽しみ尽くす
株を片付けるその直前、まだ楽しめる部分が残っているかもしれません。シソは葉(大葉)だけでなく、花穂(かすい)や実も美味しく食べられる、捨てるところのないハーブです。
秋に花が咲いた直後の、まだ実が膨らんでいない柔らかい花穂は「穂ジソ(ほじそ)」と呼ばれ、刺身のつまや天ぷらにすると絶品です。そして、花が終わり、実が膨らみ始めた頃(まだ種が硬くなる前)のものは「実ジソ(みじそ)」として収穫できます。
この実ジソは、指でしごいて実だけを集め、塩漬けや醤油漬けにすると、プチプチとした食感と爽やかな香りが凝縮された最高の保存食になります。ご飯のお供やおにぎりの具として、冬の間もシソの香りを楽しむことができます。
収穫のコツは、実が茶色くなる前、まだ緑色のうちに収穫することです。茶色くなってしまうと種の外皮が硬くなり、口当たりが悪くなります(種採り用になってしまいます)。もし、あなたのシソにまだ緑色の実がついているなら、それは最後の贈りものです。
茎ごと刈り取り、丁寧に実を外して、塩分濃度20%程度の塩漬けにするか、熱湯でさっと湯がいてアクを抜き、醤油とみりんに漬け込んでください。これが、一年草であるシソとの本当の「お別れの儀式」であり、冬越しの味覚となるのです。
冬でもシソを収穫したい!室内栽培の完全攻略ガイド
- 土植え株の室内移動はNG?その理由とリスク
- 冬の成功法則:種から始める水耕栽培のメリット
- 最重要ポイント:20℃以上の温度管理と発芽のコツ
- 失敗原因No.1「短日」を防ぐ!LED照明の活用法
- 冬の室内で発生しやすいハダニ・乾燥対策
土植え株の室内移動はNG?その理由とリスク
「外が寒いなら、プランターごと暖かいリビングに入れれば冬越しできるのでは?」と考える方が多くいらっしゃいます。しかし、園芸の専門的見地からは、この方法は推奨できません。
理由は大きく分けて2つあります。
第一に、前述した通りシソは一年草であり、秋に花が咲いた時点で生理的な寿命を迎えているからです。暖かい部屋に入れたとしても、すでに老化ホルモンが回っている株は若返ることなく、徐々に枯れていきます。
無理に生かそうとしても、出てくる葉は小さく硬く、香りのないものになります。
第二に、衛生面のリスクです。屋外にあったプランターの土の中には、ダンゴムシ、ナメクジ、コバエの幼虫、あるいは雑草の種など、様々な生物が潜んでいます。これらを暖かい室内持ち込むと、暖房の恩恵を受けて一気に活性化し、リビングが虫だらけになるというトラブルが頻発します。特にキノコバエなどのコバエ類の発生は衛生的にも精神的にも大きなストレスとなります。
冬に室内でシソを楽しみたいのであれば、外の古い株を持ち込むのではなく、「新しい種を使って、室内専用の環境でゼロから育てる」ことが、成功への唯一の近道です。


| 項目 | 屋外株の取り込み | 新規水耕栽培 |
|---|---|---|
| 株の活力 | 老化しており低い | 若く元気 |
| 衛生面 | 虫の持ち込みリスク大 | 清潔(土を使わない) |
| 葉の質 | 硬い、香りが弱い | 柔らかい、香りが良い |
| 推奨度 | 非推奨 | 推奨 |
冬の成功法則:種から始める水耕栽培のメリット
冬の室内栽培において、最もおすすめする方法は「水耕栽培(すいこうさいばい)」です。土を使わず、水と液体肥料だけで育てるこの方法は、室内栽培ならではのメリットが満載です。
まず、土を使わないため衛生的です。土由来のコバエや雑菌の繁殖を大幅に防ぐことができ、キッチンやリビングに置いても違和感がありません。また、水の管理が目に見えるため、水切れや根腐れの失敗が少なくなります。
市販の家庭用水耕栽培キットを使用するのが手軽ですが、100円ショップのザルとボウル、台所用スポンジを使っても簡単に自作できます。スポンジを2〜3cm角に切り、切り込みを入れて種をセットし、水に浸しておくだけです。
ただし、通常のシソの種は「好光性種子(こうこうせいしゅし)」といって、発芽に光を必要とします。スポンジに種をまくときは、深く埋めすぎず、種の上部が光を感じられるように浅めにセットするのがコツです。また、種は春に撒くために保存しておいたものか、新しく購入したものを使用してください。古い種は発芽率が落ちている可能性があります。


最重要ポイント:20℃以上の温度管理と発芽のコツ
冬の室内栽培で最初のハードルとなるのが「温度」です。シソの発芽適温は20℃〜25℃と高めです。日本の冬の室内は、暖房をつけている時間は暖かくても、夜間や明け方には10℃以下に冷え込むことがよくあります。
この温度差が発芽失敗の最大の原因です。
発芽させるまでは、24時間暖かい場所を確保する必要があります。例えば、冷蔵庫の上(放熱で暖かい)、Wi-Fiルーターの近く、あるいは爬虫類や熱帯魚用のパネルヒーターの上などが候補になります。
発芽するまでは、タッパーなどで覆って湿度を保ち、保温効果を高めるのも有効です。
一度発芽して本葉が出てくれば、多少の低温(15℃程度)には耐えられますが、成長スピードは極端に遅くなります。サクサクと収穫したいのであれば、育成期間中も常に20℃以上をキープすることが理想です。
窓際は昼間暖かいですが、夜間は放射冷却で屋外並みに冷えるため、夜は部屋の中央や高い位置(暖かい空気は上に溜まるため)に移動させる工夫が必要です。
冬場の温度管理テクニック
- 発芽モード: 常に25℃付近をキープ(ヒーターマット等の活用)。
- 育成モード: 最低でも15℃、できれば20℃以上を維持。
- 夜間対策: 窓から離し、発泡スチロール箱や段ボールで囲って保温する。
失敗原因No.1「短日」を防ぐ!LED照明の活用法
温度管理と同じくらい、いやそれ以上に重要なのが「光」の管理です。ここに、多くの人が冬のシソ栽培で失敗する落とし穴があります。
シソは「短日植物(たんじつしょくぶつ)」です。これは、日の長さが短くなると「冬が来る!早く子孫を残さなきゃ!」と感知し、葉の成長を止めて花芽(はなめ)を作る性質のことです。
冬の自然光は日照時間が短いため、たとえ暖かい室内であっても、窓辺の光だけで育てると、シソはすぐにトウ立ちして花を咲かせようとしてしまいます。こうなると、食用となる葉はほとんど収穫できません。
これを防ぐには、植物に「今はまだ夏だ」と勘違いさせる必要があります。そのために必須なのが「植物育成用LEDライト」です。夕方、日が沈んでからもライトを当て続け、日照時間が14時間以上になるようにコントロールしてください。


これを「長日処理(ちょうじつしょり)」または「電照栽培」と呼びます。
高価な専用ライトでなくても、光量の強いデスクライト(白色LED)などでも代用は可能ですが、植物育成専用のライトは光合成に必要な波長を含んでいるため、徒長(茎がひょろひょろに伸びること)を防ぎ、色の濃い元気なシソを育てることができます。
ライトと植物の距離を近づけ(10〜20cm程度)、しっかりと光を浴びせることが成功の秘訣です。
冬の室内で発生しやすいハダニ・乾燥対策
暖かくて雨が当たらない冬の室内は、シソにとって快適な環境であると同時に、ある害虫にとっても天国のような環境です。それが「ハダニ」です。ハダニは乾燥を好み、葉の裏に寄生して養分を吸い取ります。被害が進むと葉の色が白っぽく抜け、最終的にはクモの巣のような糸を張って株を枯らせてしまいます。
屋外では雨がハダニを洗い流してくれますが、室内ではそれがありません。暖房で乾燥した空気は、ハダニの爆発的な増殖を招きます。
対策は「葉水(はみず)」です。霧吹きを使って、毎日1回、シソの葉の「裏側」にたっぷりと水を吹きかけてください。これにより、ハダニが嫌う湿潤な環境を作ると同時に、物理的にハダニを洗い流すことができます。
もし発生してしまった場合は、食品成分(デンプンや油など)由来の、室内でも安心して使える殺虫殺菌剤を使用するか、マスキングテープなどで物理的に取り除くのが効果的です。
冬のシソ栽培は、温度と光、そして湿度(対ハダニ)との戦いです。しかし、これらをクリアして真冬に収穫する香り高いシソは、スーパーで買うものとは比較にならないほどの喜びをもたらしてくれます。
ぜひ、ハイテクを駆使した現代的な園芸スタイルとして、冬の水耕栽培にチャレンジしてみてください。
総括:シソの冬越しは「種の保存」と「室内環境制御」が成功の鍵


この記事のまとめです。
- シソは一年草であり、日本の冬の屋外で株を越冬させることは植物生理的に不可能である。
- 12月中旬現在、枯れている株は寿命を全うした状態であり、復活はしない。
- 来年も楽しむための最善策は、茶色くなった花穂から種を採取する「自家採種」である。
- 採取した種は、乾燥させた後に冷蔵庫で保管することで発芽率を維持できる。
- こぼれ種に頼ると、発芽場所が選べず、交雑による品質低下のリスクがある。
- 枯れた株は早めに処分し、根を取り除いて土をリサイクルすることで連作障害を防げる。
- 最後に残った実(実ジソ)は、塩漬けや醤油漬けにすることで冬の保存食として楽しめる。
- 冬に生葉を収穫したい場合は、屋外の株を取り込むのではなく、種から水耕栽培を始めるべきである。
- 土植え株を室内に持ち込むと、コバエなどの害虫発生源となるため推奨しない。
- 冬の室内栽培では、発芽と生育のために常に20℃以上の温度を確保する必要がある。
- シソは短日植物であるため、冬の自然光だけではすぐに花が咲いてしまう。
- 植物育成用LEDライトを使用して日照時間を14時間以上に保つことが、葉を収穫するコツである。
- 冬の室内は乾燥しやすく、ハダニが発生しやすいため、毎日の「葉水」が欠かせない。
- 水耕栽培は土を使わないため衛生的で、キッチンなどの室内環境に適している。
- 正しい知識で「命のリレー(種)」と「環境制御(室内栽培)」を使い分けるのが賢い園芸家である。











