「手間のかからない庭にしたい」「おしゃれなロックガーデンを作りたい」そんな思いから、乾燥に強い多肉植物を庭に地植えすることを検討されているかもしれませんね。
しかし、安易に多肉植物を庭に植えるのは、少し待ってください。種類によっては、植えたことを深く後悔する原因になりかねません。
この記事では、園芸の専門家として「多肉植物を庭に植えてはいけない」と言われる5つの深刻な理由と、その背景にある植物の特性を徹底的に解説します。爆発的に増える品種から、日本の気候で枯れてしまう品種、さらにはペットへの毒性まで、知っておくべきリスクを網羅します。
もちろん、対策や庭植えでも安全な推奨品種もご紹介します。あなたの理想の庭づくりを失敗させないために、ぜひ最後までご覧ください。
- 庭に植えてはいけない多肉植物の5つの深刻な理由
- 爆発的に増える品種(子宝草)と枯れる品種(エケベリア)
- ペットや人への毒性リスクと注意すべき品種
- 地植えでも安全な推奨品種と失敗しない管理法
多肉植物を庭に植えてはいけない5つの深刻な理由
- 爆発的に増える子宝草やセダム
- 日本の梅雨と冬の霜で枯れる
- ペットや人への毒性(ユーフォルビア)
- 増えすぎた株の処分は困難
- 生態系を乱す外来種の危険性
爆発的に増える子宝草やセダム
多肉植物を庭に植えて後悔する最大の理由が、一部の品種が持つ「爆発的な繁殖力」です。
代表格は、カランコエ属の「子宝草(コダカラソウ)」やその近縁種です。これらの植物は、葉の縁にびっしりと小さな子株(クローン)を作り、それが地面に落ちるだけで次々と新しい個体として根付きます。この性質は非常に強力で、管理を怠るとあっという間に庭中が子宝草だらけになり、制御不能に陥る危険性があります。一部のガーデナーの間では「雑草対策になる」と言われることもありますが、それは雑草以上の繁殖力で地面を覆い尽くしてしまうことの裏返しに他なりません。
もう一つ注意が必要なのが、セダム属の「マンネングサ(万年草)」の仲間です。これらはグラウンドカバーとして優秀な反面、非常に丈夫で、ちぎれた茎や葉からでも簡単に発根して増殖します。特に地植えにするとその成長スピードは鉢植えの比ではなく、意図しない場所までどんどん広がっていきます。幸い、根は浅いので抜きやすいという特性はありますが、レンガの隙間や他の植物の根元に入り込むと、完全に取り除くのは至難の業です。「少しだけ」のつもりが、数年後には庭全体を乗っ取られてしまった、というケースは珍しくありません。
安易な地植えは絶対NG!「増えすぎる」品種
- カランコエ属(子宝草、錦蝶など): 葉に子株を作り、周囲にばら撒いて増殖する。
- セダム属(マンネングサ類): ちぎれた葉や茎からでも発根し、地面を這うように猛烈な勢いで広がる。
日本の梅雨と冬の霜で枯れる

「増えすぎる」という悩みとは正反対に、「枯れてしまう」というのも庭植えを推奨しない大きな理由です。
私たちが「多肉植物」と聞いてイメージするエケベリアやハオルチア、パキフィツムといった人気の高いぷっくりとしたロゼット状の品種の多くは、メキシコや南アフリカなどの乾燥した温暖な地域が原産です。
これらの植物にとって、日本の気候は非常に過酷です。最大の敵は、夏の高温多湿、特に「梅雨」です。土が常に湿った状態が続くと、根が呼吸できずに腐ってしまい(根腐れ)、株全体が溶けるように枯れてしまいます。
さらに深刻なのが冬の「霜(しも)」と「凍結」です。多肉植物は葉や茎に水分を溜め込んでいるため、気温が氷点下になると細胞内の水分が凍り、組織が破壊されてしまいます。霜が一度降りただけで、大切に育てていた株が一晩でゼリー状になってしまうことも珍しくありません。
鉢植えであれば、梅雨時期は軒下に移動させ、冬は室内に取り込むといった管理が可能です。寒冷紗(かんれいしゃ)や不織布(ふしょくふ)をかけて霜よけ対策をすることもできますが、広範囲の地植えでそれを毎日行うのは現実的ではありません。耐寒性・耐暑性が明記されていない品種を安易に地植えすると、ほぼ確実に失敗すると言えるでしょう。
ペットや人への毒性(ユーフォルビア)

見落とされがちですが、非常に重要なのが「毒性」の問題です。
多肉植物の中には、ペットや人間にとって有毒な成分を含むものが少なからず存在します。
特に注意が必要なのが、ユーフォルビア属の植物です。「ダイアモンドフロスト」や「花キリン(ハナキリン)」、「ミルクブッシュ」など、観葉植物としても人気の高い種類が多く含まれます。これらの植物は、茎や葉を切ると白い乳液状の樹液を出します。この樹液には「フォルボールエステル」などの有毒な成分が含まれており、皮膚に触れるとかぶれや炎症を引き起こすことがあります。もしこの樹液に触れた手で目をこすると、失明の危険性すらあります。
また、猫や犬を飼っているご家庭では、カランコエ属にも注意が必要です。子宝草もこの仲間ですが、「ベニベンケイ(カランコエ・ブロスフェルディアナ)」などの花が美しい品種も同様です。これらは心臓配糖体(強心配糖体)を含んでおり、ペットが誤って摂取すると、嘔吐や下痢、不整脈などの中毒症状を引き起こす可能性があります。
鉢植えであれば棚の上に置くなどして隔離できますが、庭植えにすると、お子さんやペットが意図せず触れたり、口にしてしまったりするリスクが格段に高まります。安全性を最優先するならば、これらの品種の地植えは避けるべきです。
EL増えすぎた株の処分は困難


もしH3-1で述べたような繁殖力の強い多肉植物が増えすぎてしまい、手に負えなくなった場合、その「リセット」には想像以上の労力とコストがかかります。
「庭から抜いて、ゴミの日に出せば終わり」とはいきません。なぜなら、多くの自治体において、植物(草花)と「土」は一緒に捨てることができないからです。
増えすぎた多肉植物を処分するには、まず植物体を引き抜き、土と根を丁寧に振り分けて分離する必要があります。
植物体そのものは、乾燥させてから「燃えるゴミ」として出せる場合が多いです(子宝草などもこの方法で処分できます)。しかし、問題は土です。土は「自然物」であり、ゴミ処理場の焼却炉を傷める原因になるため、基本的に「ゴミ」として収集されません。
不要な土を処分するには、ホームセンターや園芸店、専門の回収業者に有料で引き取ってもらう必要があります。庭一面に広がってしまった多肉植物をリセットしようとすれば、膨大な量の土をふるいにかけ、大量の残土を処理しなければならないのです。
これは、園芸を始める際には誰も想像しない「隠れたコスト」であり、安易な地植えが将来的に大きな負担となり得ることを示しています。
生態系を乱す外来種の危険性


最後に、専門家として園芸愛好家全員に知っておいてほしい視点です。
私たちが楽しむ園芸植物の多くは、日本古来のものではなく、海外から持ち込まれた「外来種」です。多肉植物もその例外ではありません。
もちろん、外来種=悪ではありません。しかし、中には日本の気候に適応し、在来の植物の生育地を脅かすほど強く繁殖してしまうものがあります。
現状、私たちが調査した範囲では、カランコエ属やセダム属の多くは、環境省が定める「生態系被害防止外来種リスト」には(まだ)掲載されていません。しかし、リストに載っていないから安全というわけではありません。
海外から植物を輸入すること自体が、常に「外来種侵入のリスク」をはらんでいます。H3-1で解説した子宝草やマンネングサの繁殖力は、まさにその片鱗を示すものです。
もし、これらの植物が庭の管理区域を越えて河川敷や空き地に逸出し、そこで定着してしまったら…それは、ガーデナーの手によって地域の生態系を乱す「侵略的外来種」を生み出す行為に他なりません。
「自分の庭の中だから大丈夫」という考えは非常に危険です。植物は動物や鳥、あるいは人間の靴底にくっついて、容易に庭の外へ広がっていきます。自らの手で生態系を破壊しないためにも、爆発的な繁殖力を持つ植物の地植えは厳に慎むべきであり、園芸家としての重要な責任と言えます。
庭に植えても大丈夫?多肉植物との賢い付き合い方
- 地植えOKな品種の見分け方
- 推奨!グラウンドカバー向き品種
- 繁殖を防ぐ「地植え風」管理術
- 失敗した庭をリセットする方法
地植えOKな品種の見分け方


ここまで庭植えのリスクを強調してきましたが、もちろん全ての多肉植物が危険なわけではありません。正しく品種を選べば、多肉植物は庭の素晴らしいアクセントになります。
地植えに適した品種を見分けるポイントは、大きく分けて2つです。
1つ目は、「耐寒性」と「耐暑性(耐湿性)」が明記されていることです。
特に重要なのが耐寒性です。日本の冬(特に関東以北)を地植えで越すには、最低でも-5℃程度の耐寒性が欲しいところです。園芸店やネットショップでは「耐寒性:強」「冬越し可」といった表記で示されています。逆に、エケベリアなどのロゼット状の多肉は、耐寒性が「弱」や「最低5℃以上」となっているものが多く、これらは地植えに不向き(=枯れるリスクが高い)と判断できます。
2つ目は、「繁殖の仕方」を見極めることです。
子宝草のように子株をばら撒くタイプは論外です。また、セダム属の中でも、「虹の玉(ニジノタマ)」や「オーロラ」のような葉がぷっくりとした品種は、葉が落ちただけで増えますが、耐寒性がそこまで強くなく、踏みつけにも弱いため地植えにはあまり向きません。
地植えに適しているのは、「匍匐性(ほふくせい)」、つまり地面を這うようにマット状に広がるタイプです。これらは茎を伸ばして広がりますが、子株を飛ばすタイプよりは管理が容易です。次のH3で紹介する品種がこれにあたります。
地植え品種 選びのチェックポイント
- 耐寒性が「強」または「$-5℃程度」と明記されているか?
- 夏の高温多湿に耐えられるか?
- 子株をばら撒くタイプ(子宝草など)ではないか?
- 葉が薄く、地面を這うように広がる「匍匐性」か?
推奨!グラウンドカバー向き品種


では、具体的にどのような品種が日本の庭での地植え、特にグラウンドカバーに適しているのでしょうか。専門家の視点から、比較的安全で管理しやすい推奨品種をいくつかご紹介します。
これらは「多肉植物」というカテゴリに含まれますが、一般的な「ぷっくり系」とは少し趣が異なり、乾燥に強く丈夫な「宿根草(しゅっこんそう)」に近い性質を持っています。
植え付けの最適な時期は、真夏と真冬を避けた春(3月~5月)か秋(9月~10月)です。特に春に植えると、梅雨と夏を越すまでにしっかりと根を張ることができ、失敗が少なくなります。
以下に、代表的な推奨品種の特性をまとめました。
| 品種名 | 耐寒性 | 繁殖力 | 特徴・管理のポイント |
|---|---|---|---|
| マツバギク(松葉菊) | 普通~強 | 中 | 乾燥と暑さに非常に強い。痩せた土壌でも育つ。春から秋にかけ鮮やかな花を咲かせる。日当たりが絶対条件。 |
| セダム・モリムラマンネングサ | 強 | 強 | 葉が細かく鮮やかなライムグリーン。半日陰でも育つ。寒さ・暑さに強く非常に丈夫。繁殖力が強いため、広がりすぎたら適宜カットする。 |
| セダム・コーラルカーペット | 強 | 穏やか | 葉が赤褐色に紅葉する美しい品種。日当たりが良い場所ほど赤くなる。成長が比較的穏やかで管理しやすい。 |
| セダム・マルバマンネングサ | 強 | 穏やか | 丸い葉が可愛らしい。耐寒性が特に高く、寒冷地にもおすすめ。成長はゆっくり。 |
| セダム・コーカサスキリンソウ | 強 | 中 | 銀色がかった葉が特徴。トリカラーなど葉色の種類が豊富。耐寒性が非常に高い。夏の直射日光で葉焼けすることがあるため、半日陰が適する。 |
これらの品種は、いずれも踏みつけにはあまり強くありません。人が頻繁に歩く場所は避け、花壇の縁取りや、ロックガーデンの隙間、壁際などに植えるのがよいでしょう。
繁殖を防ぐ「地植え風」管理術
「リスクは分かったけれど、どうしてもエケベリアのような好みの多肉植物を庭に植えたい!」
そのお気持ちもよく分かります。その場合は、「地植え」ではなく「地植え風」に管理するという方法をお勧めします。
最も簡単で効果的なのが、「鉢ごと植える」というテクニックです。
やり方は簡単で、植えたい多肉植物を素焼き鉢やプラスチック鉢に植えたまま、その鉢が隠れるように庭の土に埋めるだけです。これなら、見た目はまるで地植えのようですが、根が鉢の外に広がることはありません。マンネングサのように地下茎や匍匐茎で広がるタイプも、鉢という物理的な壁によって、繁殖範囲を完全にコントロールできます。
さらに、この方法なら梅雨の長雨が続く時期だけ鉢を取り出して軒下に避難させたり、冬が来る前に鉢ごと室内に取り込んだりすることも容易です。つまり、地植えの「見た目」と、鉢植えの「管理のしやすさ」「リスク回避」の“良いとこ取り”ができるのです。



大切なのは、植えたい植物の「逃げ道」を作らないことです。制御できる環境下で、賢く多肉植物を楽しみましょう。
失敗した庭をリセットする方法


すでに多肉植物を地植えしてしまい、増えすぎたり、枯れ残りが汚くなってしまったりして「庭をリセットしたい」とお困りの方もいらっしゃるかもしれません。
その場合、H3-4で述べた「処分の困難さ」を念頭に置き、以下の手順で根気よく作業を進める必要があります。
- STEP1: 物理的な除去
まず、目に見える植物体を全て引き抜きます。マンネングサ(セダム)の仲間は根が浅いため、比較的簡単に引き抜くことができます。子宝草も同様に引き抜きますが、作業中に子株を落とさないよう、そっと行うのがコツです。 - STEP2: 土の選別(ふるい分け)
最も重要な作業です。特にセダム類は、数ミリの葉や茎の破片が土に残っているだけで、そこから再生してしまいます。根こそぎ取り除いたつもりでも、土の中に無数の「増殖パーツ」が残っています。
土を掘り起こし、目の粗い「ふるい」にかけて、土と植物の破片(根、茎、葉)とを徹底的に分離します。非常に地道で大変な作業ですが、これを怠ると数週間後には再び芽吹いてきます。 - STEP3: 適切な処分
分離した「植物体」は、よく乾燥させてから自治体のルールに従い「燃えるゴミ」として処分します。
問題の「土」は、ふるいにかけて植物片を取り除いたとしても、ゴミとして捨てることはできません。もし他の場所で再利用する予定がなければ、自治体の窓口や専門の処理業者に相談し、適切な方法で処分してください。
このように、一度失敗した庭のリセットは多大な労力を伴います。だからこそ、植える前の「品種選び」が何よりも重要なのです。
総括:多肉植物を庭に植えてはいけない?結論は「品種選び」
この記事のまとめです。
- 多肉植物を安易に庭に植えるのは危険である
- 「子宝草」や一部の「セダム」は爆発的に増殖し制御不能になる
- 「エケベリア」など多くは日本の梅雨と冬の霜で枯死しやすい
- 「ユーフォルビア属」の樹液は皮膚炎を、「カランコエ属」はペット中毒を引き起こす
- 増えすぎた株の処分は「土」と「植物」の分離が必要で非常に困難である
- 園芸植物が庭から逸出し、地域の生態系を乱すリスクを常に認識すべきである
- 地植えの可否は「耐寒性」と「繁殖方法」で見極める
- 耐寒性が「強」または「-5℃以下」の品種を選ぶ
- 子株をばら撒くタイプは避け、「匍匐性」の品種を選ぶ
- 「マツバギク」は乾燥と暑さに強く、地植えの代表格である
- 「モリムラマンネングサ」などは耐寒性が強く丈夫なグラウンドカバーになる
- 推奨品種でも踏みつけには弱いため、人が歩かない場所に植える
- 繁殖や枯死が心配な品種は「鉢ごと植える」管理法が有効である
- 鉢ごと植えれば、見た目は地植え風で、季節移動も可能になる
- 増えすぎた庭のリセットは、土をふるいにかけて植物片を完全に取り除く必要がある











