バラの実どうする?剪定の判断と活用法まで徹底解説

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バラの花が美しく咲き終わった後、ふと枝先を見ると丸く色づき始めた「実」。あなたは「このバラの実、どうするんだろう?」と悩んだことはありませんか。そのままにしておくと株が弱ると聞く一方で、ジャムやリースに活用できるという話も耳にします。この記事では、園芸専門家の視点から、バラの実を剪定すべきか、残すべきかの判断基準を、植物の生理生態に基づいて詳しく解説します。さらに、ローズヒップの栄養価、安全な食べ方、おしゃれなドライフラワーの作り方、さらには種まき(実生)栽培のロマンと、種苗法という法律の知識まで、あなたの「どうする?」に完全にお答えします。

  • 四季咲きバラは株の体力温存のため剪定が基本
  • 一季咲きや原種は観賞用として実を残す楽しみがある
  • 食用にする際は無農薬で育てた食用専用の品種のみに限定する
  • ドライフラワーや種まきなど栽培の楽しみ方もある
目次

バラの実、どうする?株のための剪定と観賞の判断

  • なぜバラの実を「どうするか」悩むのか
  • 四季咲きバラは「実をつけさせない」が基本
  • 実を残すデメリット:株が弱る理由
  • 実を残すメリット:観賞と品種の魅力

なぜバラの実を「どうするか」悩むのか

バラの花が咲き終わった後、その「花がら」をどう扱うか。これはガーデナーにとって、一つの大きな分岐点です。なぜなら、ここには「植物の目的」と「人間の目的」の明確な違いがあるからです。

植物としてのバラの最優先事項は、子孫を残すこと。つまり、花を咲かせて受粉し、種子(タネ)の入った「実」を成熟させることです。この「実」こそが、私たちが目にするバラの実(ローズヒップ)です。植物にとって、実を熟させることは、その年の最も重要な仕事の達成を意味します。

一方で、多くのガーデナーの目的は、「できるだけ長く、たくさんの花を楽しむこと」です。ここにジレンマが生まれます。植物は実を一つ作るために、膨大なエネルギーを消費します。光合成で作った貴重な栄養(糖)を、新しい花芽を作ることではなく、種子を成熟させることに集中して注ぎ込んでしまうのです。この根本的な「エネルギーの配分」をめぐる対立こそが、私たちが「バラの実、どうする?」と悩む根本的な理由なのです。あなたの答えは、あなたが育てているバラの「種類」と、あなたがバラに「何を求めているか」によって決まります。

四季咲きバラは「実をつけさせない」が基本

もし、あなたが育てているバラが「四季咲き」(Repeat-Blooming)と呼ばれるタイプ、例えばハイブリッド・ティー(HT)やフロリバンダ(F)など、春から秋まで繰り返し花を咲かせる品種であるなら、基本的な答えは「実をつけさせない=花がらは剪定する」です。

これは植物の生理に基づいた、極めて合理的な判断です。四季咲きバラは、もともと「花が咲き終わっても、体力が残っていれば次の花を咲かせようとする」性質を持っています。しかし、花が咲き終わった後に実ができてしまうと、バラの木は「子孫繁栄の仕事は完了した」と判断し、次の花芽を作るための活動を停止してしまいます。エネルギーのすべてが、その実を大きく、赤く熟させることに振り向けられてしまうからです。

そこでガーデナーが行うのが「花がら切り(デッドヘッド)」です。花が咲き終わった直後、実が大きくなる前に切り取ることで、バラの木をいわば「騙す」のです。植物は「おっと、繁殖に失敗した(例:動物に食べられた)」と勘違いし、「もう一度、花を咲かせて種を作らなくては!」と、再び新しい枝を伸ばし、その先に花芽をつけます。これが、四季咲きバラを長く楽しむための園芸技術の根幹です。

実を残すデメリット:株が弱る理由

四季咲きバラで実をつけさせることは、単に「次の花が咲かない」というだけにとどまりません。それは、株の体力そのものを著しく消耗させ、翌年の生育にまで悪影響を及ぼす可能性があります。

植物にとって、種子を作ることは全エネルギーを注ぎ込む大仕事です。特に、バラは秋が深まると、来たるべき冬に備えて、光合成で作った栄養を根や枝(幹)に蓄えようとします。これは「冬越しの準備」であり、翌春に力強い新芽(シュート)を出すための大切な貯金です。

しかし、この大事な時期にたくさんの実がなっていると、どうなるでしょうか。バラは、冬の準備を後回しにしてでも、目の前の実を成熟させることを優先します。結果、秋の間中エネルギーを実に奪われ続け、十分な「貯金」ができないまま冬に突入してしまうのです。体力(蓄積養分)が depleted (枯渇) した株は、冬の寒さで枝先が枯れ込みやすくなったり、翌春に芽吹く力が弱く、細い枝しか出せなくなったりします。これが「実を残すと株が弱る」ことの正体です。特に株がまだ小さい新苗や、夏バテ気味の株で実をつけさせるのは、非常にリスクが高い行為と言えます。

体力の消耗に注意

四季咲き性のバラで実を放置することは、植物の「エネルギー配分」を大きく乱すことになります。目先の花数が減るだけでなく、株が冬を越すための体力や、翌春に力強く成長するための「基礎体力」まで奪ってしまうリスクがあることを、ぜひ知っておいてください。

実を残すメリット:観賞と品種の魅力

では、バラの実はすべて「悪」で、見つけ次第すぐに切るべきなのでしょうか。もちろん、そんなことはありません。ここからがバラ栽培の奥深いところです。

世の中には、花を繰り返し咲かせる「四季咲き」とは対照的に、春に一度だけ豪華に咲く「一季咲き(Once-Blooming)」のバラがたくさんあります。ノイバラ(野ばら)やハマナスといった日本の原種や、ヨーロッパの原種であるロサ・カニナ(ドッグローズ)、そして多くのオールドローズや、つるバラ(クライミングローズ)の一部がこれに該当します。

これらのバラにとって、実は「花の次にやってくる、秋の主役」です。春に花を楽しんだ後、ガーデナーはあえて実を残します。夏を経て、秋風が冷たくなると、それらの実は鮮やかな赤やオレンジ、時には黒に近い濃紫色に色づき、葉が落ちた後の冬の庭を彩る貴重な「第二の観賞期」をもたらしてくれます。例えば、‘モーツァルト’という品種は、小さな花とかわいらしい実の両方で人気がありますし、‘レディ・ペンザンス’は卵型の美しい実をつけます。

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一季咲きのバラは、花と実の「二度楽しめる」のが醍醐味ですね。秋の庭を彩るルビーのような実は、本当に美しいものです。

あなたのバラがどちらのタイプなのか? それによって「どうする」べきかが決まります。以下の表で、ご自身の目的と照らし合わせてみてください。

スクロールできます
バラの種類 主な栽培目的 推奨する作業 理由と目的
四季咲き品種
(例:ハイブリッド・ティー、フロリバンダ、近年のシュラブ)
春から秋まで、繰り返し花を咲かせたい 剪定する(花がら切り) 株の体力を温存し、実へのエネルギー消費を止め、次の開花を促すため。
一季咲き品種
(例:多くの原種、オールドローズ、一部のつるバラ)
春の花と、秋の実の両方を楽しみたい 実を残す 花の後の「第二の主役」として、秋から冬にかけての観賞価値(実)を楽しむため。

バラの実を活用する全手法:食用から栽培まで

  • バラの実(ローズヒップ)の栄養と食べ方
  • 【最重要】食べる際の農薬と品種の注意点
  • クラフトで楽しむ:ドライフラワーの作り方
  • 種まきで増やす:実生栽培の基本
  • 法律を知る:種苗法と登録品種の扱い

バラの実(ローズヒップ)の栄養と食べ方

さて、観賞用に実を残した場合、あるいは食用に栽培した場合、そのバラの実、通称「ローズヒップ」にはどのような価値があるのでしょうか。ローズヒップは、その驚異的な栄養価で古くから知られています。

最も有名なのはビタミンCの含有量で、「ビタミンCの爆弾」という異名を持つほどです。その量は、生の可食部でレモンの約20倍から40倍にも達すると言われています。さらに、ビタミンCの働きを助けるビタミンP(フラボノイド)や、抗酸化作用のあるビタミンA(βカロテン)やビタミンE、リコピン、さらには鉄分やカルシウムといったミネラルも豊富に含んでいます。これらの成分が総合的に働くことで、美肌効果、免疫力のサポート、疲労回復などに役立つとされています。

主な活用法は「ハーブティー」と「ジャム」です。ハーブティーは、乾燥させた実を使い、5分から10分と長めに抽出するのがコツ。ハイビスカスとブレンドすると、クエン酸も加わり、より効果的です。ジャムにする場合は、例えば「ローズヒップ50g、水200ml、砂糖50g、クエン酸(またはレモン汁)少々」といった簡単なレシピがあります。また、日本に自生するハマナス(Rosa rugosa)の実は、煮込んで加工することで食べられることが知られています。生食では香りや果汁に乏しく、内部に多数の種があるため、ピューレなどに加工して利用するのが一般的です。

実の中の「毛」に注意!

ローズヒップティーの原料としてよく使われるロサ・カニナ(ドッグローズ)などの実(偽果)の内部には、細かいトゲトゲした毛がたくさん入っています。これは、そのまま摂取すると喉や消化器系を刺激し、炎症の原因になることがあります。ジャムやティーにする際は、必ず種と一緒にこの毛を丁寧に取り除くか、目の細かい布やフィルターで「漉す(こす)」作業を徹底してください。

【最重要】食べる際の農薬と品種の注意点

前のセクションでジャムやティーの作り方を紹介しましたが、ここで最も重要な警告をしなければなりません。それは、「ご自宅の観賞用ガーデンで育てたバラの実は、絶対に食べてはいけない」ということです。

理由は、「農薬の基準が全く異なる」からです。私たちが普段、アブラムシや黒星病(黒点病)対策でバラに散布している「花き類・観葉植物用」の農薬は、あくまで「観賞」が前提です。一方、スーパーなどで売られている「食用バラ(エディブルフラワー)」には、「食用」としての、はるかに厳格な農薬基準が定められています。観賞用としては使用が許可されている農薬や濃度でも、食用としては一切認められていないものが大半です。残留農薬の危険性があり、体に深刻な害を及ぼす可能性があります。

「自分は農薬を使っていないから大丈夫」と思うかもしれません。しかし、市販のローズヒップティーやジャムは、ロサ・カニナやハマナスなど、食用に(あるいは食用にも)適した特定の品種を選び、食品として厳格に管理・栽培されたものです。お庭のハイブリッド・ティーの品種が、そもそも食用に適しているかどうかも分かりません。

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これは本当に大切なことです。お庭のバラは「観賞用」のルールで育てられています。どうか、安易に口にしないでくださいね。

安全に楽しむためのルール

ローズヒップを口にしたい場合は、必ず「食用」として販売されているローズヒップティーやジャムを購入してください。もしご自身で育てたい場合は、ハマナス(ロサ・ルゴサ)などの食用実績のある品種を「食用」と明確に決めて鉢植えなどで隔離し、最初から一度も観賞用の農薬を使わずに育てる必要があります。なお、観賞用の農薬がかかったバラの実を加工して他人に譲渡することは、農薬取締法に抵触する恐れさえあります。

クラフトで楽しむ:ドライフラワーの作り方

観賞用のバラの実の、最も安全でポピュラーな活用法は、リースやスワッグ、アレンジメントなどの「クラフト(手芸)」に使うことです。特にドライフラワーにすると、その形と色を長く楽しむことができます。

作り方は大きく分けて2つあり、それぞれ仕上がりの雰囲気が異なります。

1. ハンギング法(自然乾燥)
これは最も手軽な方法です。バラの実をつけた枝を適度な長さにカットし、数本を束ねて麻紐などで縛ります。そして、S字フックなどを使って「逆さま」に吊るします。場所は、直射日光が当たらず、風通しの良い乾燥した室内が最適です。梅雨時期は湿度が高くカビやすいので避け、秋から冬の乾燥した時期に行うのがベストです。2〜3週間ほどで乾燥します。色は生花時よりも濃く、くすんだ「アンティーク調」のシックな仕上がりになるのが特徴です。

2. シリカゲル法(急激乾燥)
お菓子などに入っている乾燥剤「シリカゲル」を使う方法です。タッパーなどの密閉容器にシリカゲル(ドライフラワー用の粒状のものが手芸店などで売られています)を敷き詰め、その上に実を並べます。さらに上からシリカゲルを優しくかけて、実を完全に埋めてしまいます。蓋をしっかり閉めて密閉し、1週間ほど置きます。この方法の最大のメリットは、色や形が生の状態に近く、鮮やかに仕上がることです。鮮やかな赤色を保ちたい場合におすすめです。

種まきで増やす:実生栽培の基本

さらに一歩進んだ楽しみ方として、その実から「種」を採ってまく「実生(みしょう)栽培」があります。これは、新しい品種のバラを生み出す「育種」の第一歩であり、園芸のロマンが詰まった挑戦です。

秋に赤く熟した実を収穫し、果肉を洗い流して種を取り出します。タキイ種苗の「種まき培土」のような清潔な用土をセルトレイなどに入れ、種をまきます。

ただし、バラの種まきには一つ、非常に重要な「コツ」があります。それは、「種子の休眠打破(きゅうみんだは)」です。バラの種は、冬の寒さを経験しないと「春が来た」と認識できず、発芽スイッチが入りません。採ってすぐに暖かい部屋でまいても、ほとんど発芽しないのです。

休眠打破「低温湿潤処理」の方法

この「冬の疑似体験」をさせることを、専門用語で「低温湿潤処理」または「ストラティフィケーション」と呼びます。具体的な方法は2つあります。

  1. 自然に任せる(秋まき):秋に採った種をすぐに戸外の鉢にまき、冬の間ずっと雨風と寒さにさらしておきます。そうすると、種は自然に休眠打破され、春(5月頃)に発芽し始めます。
  2. 冷蔵庫を使う(春まき):種を湿らせたキッチンペーパーやピートモスと一緒にビニール袋に入れ、冷蔵庫の野菜室で1〜2ヶ月間保存します。その後、春に暖かい室内でまくと発芽が揃いやすくなります。

この一手間が、バラの実生栽培の成功率を格段に上げる鍵となります。

法律を知る:種苗法と登録品種の扱い

最後に、種まきに関連して、すべてのガーデナーが知っておくべき法律、「種苗法(しゅびょうほう)」について解説します。これは、植物の「知的財産権」を守る法律です。

私たちが購入するバラの苗、特にデルバール社や河本バラ園、ロサ・オリエンティスなどの有名な育種家が作出した新品種は、その多くが「登録品種」として国に登録されています。登録品種の苗には「登録品種」や「PVP」といったマークがついていることがあります。種苗法では、これらの登録品種を、育成者の許可なく「挿し木(さしき)」や「接ぎ木」などの栄養繁殖(クローンを作ること)によって増やし、それを他人に販売したり、無償であっても譲渡(じょうと)したりすることを固く禁じています。

では、前のセクションで解説した「種まき(実生)」はどうなのでしょうか?

「実生(種まき)」と「挿し木」は全く違う

ここで、非常に大切な生物学的な事実と法律の解釈を分けて理解する必要があります。

  • 挿し木(クローン):親と100%同じ遺伝情報を持つ「クローン」を作る行為です。これを登録品種で行い譲渡すると、法律違反(種苗法違反)になります。
  • 実生(種まき):人間でいえば「子供」を作る行為です。交配によって生まれた種は、親とは遺伝情報が異なる「新しい個体」です。例えば、‘ピエール・ドゥ・ロンサール’の種から育った苗は、もはや‘ピエール・ドゥ・ロンサール’ではありません。別の、新しい(多くの場合、親より劣る)個性を持ったバラが生まれるだけです。

したがって、登録品種の実から種を採ってまき、ご自身の庭で「どんな花が咲くかな」と楽しむこと自体は、種苗法が規制する「栄養繁殖(クローン)」には該当しません。しかし、この「法律で保護された権利がある」という概念そのものを知っておくことは、現代のガーデナーにとって非常に重要な教養です。

総括:バラの実を「どうする」か、目的を持って賢く判断しよう

この記事のまとめです。

  • バラの実をどうするかは、バラの品種と栽培目的で決まる
  • 四季咲きバラは、次の花を咲かせるために実をつけさせず剪定が基本である
  • 花がら切りは、株に「繁殖失敗」と認識させ、次の開花を促す園芸技術だ
  • 実を放置すると、株は種子にエネルギーを奪われ、株全体が弱る
  • 特に秋の実の放置は、冬越しのためのエネルギー蓄積を妨げる
  • 一季咲き品種や原種は、秋の観賞用として実を残す価値がある
  • ノイバラやハマナス、モーツァルトなどは美しい実で知られる
  • バラの実はローズヒップと呼ばれ、ビタミンCの爆弾と称される
  • ジャムやハーブティーとして食用にできるが、品種が限定される
  • ロサ・カニナなどの実には炎症を起こす毛があり、処理に注意が必要だ
  • 観賞用バラに使う農薬は食用基準と異なり、実は絶対に食べてはならない
  • 無農薬で育てた食用専用の品種(ハマナスなど)のみが安全である
  • クラフトではドライフラワーが人気で、ハンギング法とシリカゲル法がある
  • 種まき(実生)には、種子の休眠打破(低温湿潤処理)が不可欠である
  • 登録品種を挿し木で増殖し譲渡する行為は、種苗法で禁止されている
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この記事を書いた人

植物を愛するガーデニングブロガー。
植物と暮らす楽しさを、みんなにわかりやすくお届けします。

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