家庭菜園で甘くて美味しいいちごを育てるなら、肥料選びが成功の鍵を握ります。中でも、安価で栄養価の高い「鶏糞」は魅力的な選択肢ですが、「いちごには強すぎるのでは?」と不安に思う方も多いのではないでしょうか。いちごは肥料に敏感な植物のため、鶏糞の使い方を間違えると、根を傷める「肥料焼け」を起こしかねません。この記事では、いちご栽培における鶏糞肥料の正しい使い方を徹底解説します。発酵鶏糞の選び方から、元肥・追肥の最適なタイミング、失敗しない施肥量、牛糞との違い、そして意外と知られていない種苗法まで、あなたのいちご栽培を成功に導く知識を網羅。この記事を読めば、鶏糞を安全かつ効果的に使いこなし、ワンランク上のいちご作りが実現できます。
- いちごには「発酵済み」の鶏糞を植え付け1〜3週間前に使うのが基本
- 鶏糞は肥料効果が高い反面、与えすぎると肥料焼けや土壌のアルカリ化を招く
- 土壌改良効果の高い牛糞と、肥料効果の高い鶏糞は目的で使い分ける
- 登録品種のいちごは「種苗法」により自家増殖に許諾が必要な場合がある
いちご栽培で鶏糞肥料を使う正しい方法と注意点
鶏糞は、いちご栽培において非常に有効な有機質肥料ですが、そのパワフルな効果ゆえに、正しい知識を持って使わなければなりません。ここでは、鶏糞肥料の選び方から施肥の量、方法、タイミングまで、初心者が陥りがちな失敗を避け、いちごの健全な生育を促すための具体的なノウハウを詳しく解説します。
- 鶏糞肥料の選び方:発酵済みと乾燥品の違い
- 施肥の最適時期:元肥と追肥のタイミング
- 失敗しない施肥量:1㎡あたりの目安と計算方法
- 正しい施肥方法:肥料焼けさせないコツ
鶏糞肥料の選び方:発酵済みと乾燥品の違い

EL鶏糞肥料には、主に「乾燥鶏糞」と「発酵鶏糞」の2種類があります。この違いを理解することが、いちご栽培成功への第一歩です。
乾燥鶏糞は、鶏のフンを熱風で乾燥させただけのものです。土に混ぜ込むと、土中の微生物によって分解(発酵)が始まります。この過程で、植物の根に有害なアンモニアガスが発生することがあり、特に植え付け直後のデリケートないちごの苗には大きなダメージを与えかねません。そのため、乾燥鶏糞を使用する場合は、植え付けの1ヶ月以上前に土に混ぜ込み、ガスが抜けるのを待つ必要があります。
一方、発酵鶏糞は、製造過程ですでに発酵処理が済んでいる鶏糞です。多くは扱いやすいペレット状に加工されています。発酵が完了しているため、土に混ぜ込んでも有害なガスが発生するリスクが非常に低く、臭いも穏やかです。土壌に馴染ませるため、植え付けの1〜2週間前に施すのが理想ですが、乾燥鶏糞に比べて格段に安全性が高いと言えます。家庭菜園でいちごのような肥料に敏感な作物を育てる場合、失敗のリスクを最小限に抑えるためにも、「発酵鶏糞」または「鶏糞ペレット」を選ぶことを強く推奨します。
選び方のポイント
- 初心者・家庭菜園:有害ガスのリスクが低い「発酵鶏糞」が安全で確実。
- 上級者・畑作:コストを抑えたい場合、「乾燥鶏糞」も選択肢になるが、植え付け1ヶ月前には施肥を終えるなど、適切な管理が必須。
施肥の最適時期:元肥と追肥のタイミング


鶏糞肥料の効果を最大限に引き出すには、「いつ与えるか」というタイミングが極めて重要です。いちごの生育ステージに合わせて、元肥(もとごえ)と追肥(ついひ)の2つのタイミングで施肥を行いましょう。
元肥は、苗を植え付ける前にあらかじめ土壌に混ぜ込んでおく肥料のことです。いちごが根を張り、初期生育をスムーズに進めるための大切な栄養源となります。発酵鶏糞を元肥として使う場合、植え付けの1〜3週間前が最適なタイミングです。これは、鶏糞が土に馴染み、微生物の活動が安定するのを待つためです。鶏糞に含まれる窒素成分は、施用後4週間を過ぎると効果が薄れ始めるという特性もあります。早すぎても遅すぎてもいけない、この「1〜3週間前」という期間が、鶏糞の栄養を最も効率的にいちごに届けるためのスイートスポットなのです。
追肥は、生育の途中で不足してくる栄養を補うために与える肥料です。鶏糞は有機質肥料の中では分解が早く、比較的速効性があるため追肥にも適しています。追肥のタイミングは、いちごの生育状況を見ながら判断します。
一般的には、以下の2回が目安です。
- 1回目の追肥:苗の植え付けから約1ヶ月後(11月中旬頃)。根がしっかりと張り、新しい葉が活発に展開し始めた頃がサインです。
- 2回目の追肥:冬を越し、気温が上がり始める2月上旬〜中旬頃。春からの成長と開花・結実に備えて栄養を補給します。



失敗しない施肥量:1㎡あたりの目安と計算方法


鶏糞は栄養価が高い分、その量を間違えると逆効果になります。特にいちごは、肥料濃度が高い土壌を嫌い、肥料焼けを起こしやすい非常にデリケートな作物です。
鶏糞の与えすぎは禁物!
鶏糞を過剰に施用すると、土壌の塩類濃度が高くなり、浸透圧によって根から水分が奪われ、苗が枯れてしまう「肥料焼け」を引き起こします。また、土壌がアルカリ性に傾き、いちごが必要とする微量要素を吸収できなくなることもあります。
では、具体的にどれくらいの量を与えれば良いのでしょうか。プロのいちご農家では土壌分析に基づいて厳密に計算しますが、家庭菜園ではまず安全な量から始めることが大切です。一般的な目安として、元肥に鶏糞を使う場合、1平方メートルあたり500g(0.5kg)以下に留めるのが賢明です。これは、他の堆肥(牛糞など)と併用することを前提とした、安全性の高い量です。
ここで重要なのは、鶏糞だけでいちごに必要な全ての栄養を賄おうとしないことです。鶏糞は窒素やリン酸、カルシウムが豊富ですが、栄養バランスが偏っています。いちごが好む弱酸性の土壌をアルカリ性に傾けてしまう性質もあります。
したがって、鶏糞はあくまで「栄養豊富な有機質ブースター」と位置づけ、元肥全体の窒素量の3〜5割程度を鶏糞で供給し、残りは緩効性の化成肥料や他の有機質肥料で補うのが、バランスの取れた理想的な施肥設計です。



正しい施肥方法:肥料焼けさせないコツ


適切な量とタイミングがわかったら、最後の仕上げは「施肥方法」です。間違った与え方は、肥料焼けの直接的な原因となります。元肥と追肥、それぞれの正しい施肥方法をマスターしましょう。
元肥の施肥方法
元肥は、土壌全体に均一に混ぜ込む「全面全層施肥」が基本です。
- 規定量の鶏糞を畑やプランターの土の表面に均一にまきます。
- クワやスコップを使って、深さ20〜30cm程度まで、土と鶏糞がまんべんなく混ざり合うようにしっかりと耕します。
この「よく混ぜる」という作業が非常に重要です。鶏糞が一部分に固まっていると、その部分だけ肥料濃度が極端に高くなり、そこに触れた根が焼けてしまいます。土としっかり混和させることで、肥料成分を希釈し、根が安全に栄養を吸収できる環境を作るのです。
追肥の施肥方法
追肥で最も注意すべき点は、肥料を絶対に株元(クラウン)や根に直接触れさせないことです。
いちごの株元から10〜15cmほど離れた場所に、浅い溝を掘るか、指で数カ所に穴を開けます。そこに規定量の鶏糞を施し、周りの土と軽く混ぜて土をかぶせます。プランターの場合は、プランターの縁に沿ってまくと良いでしょう。
この方法は、肥料が直接根に触れるのを防ぐだけでなく、根が肥料を求めて伸びていくのを促し、より広範囲に根を張らせる効果も期待できます。
肥料焼けを防ぐ2つのポイント
肥料焼けは、単なる「直接接触による火傷」だけではありません。土壌の一部分に肥料が集中すると、その場所の塩類濃度が高まり、浸透圧で根から水分が逆流してしまいます。つまり、土が湿っていても植物は水分を吸えず、脱水症状で枯れてしまうのです。「均一に混ぜる」「株元から離す」という2つのルールは、この化学的なメカニズムから根を守るための鉄則なのです。
いちごの味を良くする鶏糞肥料のメリットとコツ
鶏糞を安全に使う方法を学んだところで、次はその魅力と、より効果的に活用するための応用知識について掘り下げていきましょう。鶏糞が持つメリットを理解し、他の有機質肥料と使い分けることで、あなたのいちご栽培はさらにレベルアップします。
- 鶏糞が持つ3つの大きなメリットとは?
- 牛糞との違いは?いちご栽培での使い分け
- 鶏糞のやりすぎはNG!土壌への影響と対処法
- 【重要】種苗法といちごの自家増殖について
鶏糞が持つ3つの大きなメリットとは?


鶏糞が多くの園芸家や農家に愛用されるのには、明確な理由があります。その主なメリットを3つご紹介します。
1. 栄養価が高く、速効性がある
鶏糞は、植物の生育に不可欠な三大要素である窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)をバランス良く、豊富に含んでいます。特に、花や実のつきを良くするリン酸が多いため、いちごのような果菜類には非常に効果的です。また、カルシウムも豊富で、いちごのカルシウム欠乏症(チップバーンなど)の予防にも役立ちます。有機質肥料の中では分解が早く、施用してから効果が現れるまでの時間が短い「速効性」も大きな特徴で、生育の状況を見ながら追肥で栄養をコントロールしやすい点も魅力です。
2. コストパフォーマンスが非常に高い
鶏糞は、養鶏の副産物であるため、他の有機質肥料や化成肥料と比較して非常に安価に入手できます。ホームセンターなどでは15kgの大袋が数百円程度で販売されていることも珍しくありません。少ない投資で高い肥料効果が得られるため、家庭菜園からプロの農家まで、幅広い層にとって経済的な負担が少ない頼れる存在です。
3. 土壌の生物性を豊かにする
鶏糞は化学肥料と違い、豊富な有機物を含んでいます。これを土に施すと、土壌中の微生物たちの格好の餌となります。微生物が活性化すると、彼らの働きによって土が団粒構造化され、水はけや通気性、保水性が向上します。また、多様な微生物が増えることで土壌の生態系が豊かになり、特定の病原菌の活動を抑える効果も期待できるのです。鶏糞は、単にいちごに栄養を与えるだけでなく、いちごが育つための土壌環境そのものを、長期的かつ持続的に改善してくれるのです。
牛糞との違いは?いちご栽培での使い分け





鶏糞と牛糞は、どちらも家畜のフンから作られる堆肥ですが、その性質は正反対と言っても過言ではありません。それぞれの特徴を理解し、適切に使い分けることが重要です。
鶏糞は「肥料」、牛糞は「土壌改良材」と覚えると分かりやすいでしょう。
鶏糞は、前述の通り栄養価が非常に高く、植物に栄養を補給する「肥料」としての役割がメインです。繊維質が少ないため、土をフカフカにする土壌改良効果はあまり期待できません。
一方、牛糞は、牛が草などの繊維質を多く含む餌を食べているため、フンにも多くの繊維が含まれています。そのため、栄養価は鶏糞に比べて低いものの、土に混ぜ込むことで通気性や保水性を高め、土を団粒化させてフカフカにする「土壌改良材」としての効果が絶大です。
いちご栽培における理想的な使い分けは、土作りの段階で牛糞を主体とした堆肥をたっぷりすき込み、土壌の物理性を改善し、元肥として鶏糞を適量加えて初期生育に必要な栄養を補うという組み合わせです。
| 特徴 | 鶏糞 | 牛糞 |
|---|---|---|
| 肥料成分 | 窒素・リン酸が豊富で高い | 比較的少なく、緩やか |
| 効果の速さ | 速効性が高い | 遅効性で穏やか |
| 土壌改良効果 | 限定的 | 繊維質が多く、非常に高い |
| 主な用途 | 肥料としての栄養補給 | 土壌改良材としての物理性改善 |
| 注意点 | 肥料焼け、土壌のアルカリ化 | 未熟なものは根腐れの原因に |
鶏糞のやりすぎはNG!土壌への影響と対処法


万が一、鶏糞を入れすぎてしまった場合、どうすれば良いのでしょうか。慌てて対処を間違えると、状況をさらに悪化させてしまいます。
鶏糞の過剰施用が引き起こす最大の問題は、前述の「肥料焼け」と「土壌のアルカリ化」です。いちごはpH5.5〜6.5の弱酸性の土壌を好みますが、鶏糞に含まれるカルシウムの影響で土壌のpHが7.0以上(中性〜アルカリ性)に傾いてしまうことがあります。土壌がアルカリ化すると、鉄やマンガンといった必須の微量要素が水に溶けにくくなり、たとえ土の中に栄養があっても、いちごはそれを吸収できなくなってしまいます(栄養吸収のロックアウト)。
もし、鶏糞を入れすぎたと感じたら、以下の手順で対処しましょう。
- 物理的に取り除く:施用したばかりであれば、できる限り手やスコップで鶏糞と、その周りの土を取り除きます。
- 酸性資材で中和する:土壌のpHを弱酸性に戻すため、「酸度未調整のピートモス」を土に混ぜ込みます。ピートモスは酸性が強く、アルカリ性に傾いた土壌を中和する効果があります。また、保肥力も高いため、過剰な窒素成分を一時的に保持してくれる効果も期待できます。
- 大量の水で洗い流す:応急処置として、大量の水をまいて過剰な肥料成分を土壌の下層へ流し出す方法もありますが、これは他の栄養素も流出させてしまうため最終手段と考えましょう。



【重要】種苗法といちごの自家増殖について
最後に、園芸を楽しむ上で非常に重要ながら、あまり知られていない法律について触れておきます。それは「種苗法(しゅびょうほう)」です。
いちごは、親株から伸びる「ランナー」という蔓(つる)の先にできる子株を育てることで、簡単に増やすことができます。しかし、購入した苗が「登録品種」である場合、この増殖行為が法律で制限されていることをご存知でしょうか。
種苗法は、長い年月と多額の費用をかけて新しい品種を開発した育種家の権利(育成者権)を守るための法律です。2022年4月に改正され、国や県、企業などが開発した「登録品種」については、農家だけでなく家庭菜園であっても、権利者の許諾なく増殖(自家増殖)することができなくなりました。
例えば、「とちおとめ」や「あまおう」といった有名な品種の多くは登録品種です。これらの苗からランナーで子株を作って翌年も育てる、という行為は、厳密には許諾が必要となります。
知っておくべきポイント
- 登録品種の確認:購入する苗のラベルに「登録品種」「PVPマーク」などの表示がないか確認しましょう。農林水産省の品種登録ホームページで調べることもできます。
- 無断増殖のリスク:許諾なく増殖した苗を、他人へ譲渡したり販売したりする行為は、以前から違法であり、罰則の対象となります。
- 安全な楽しみ方:法律を遵守し、品種本来の性能を発揮させるためにも、毎年信頼できる種苗店から新しく正規の苗を購入することが最も安全で確実な方法です。病気のない健全な苗から始めることが、美味しいいちごを収穫する一番の近道でもあります。
この知識は、あなたの園芸活動をより責任ある、成熟したものにしてくれます。単に育てる技術だけでなく、植物を取り巻く社会的なルールにも敬意を払うことが、真の園芸愛好家と言えるでしょう。
総括:いちごの肥料に鶏糞を使いこなし、甘い果実を実らせる
この記事のまとめです。
- 鶏糞はいちご栽培に有効な有機質肥料である
- 使用する際は「発酵鶏糞」を選ぶのが安全である
- 乾燥鶏糞は有害ガス発生のリスクがあるため、植え付け1ヶ月前には施肥を終える必要がある
- 元肥としての施肥タイミングは、植え付けの1〜3週間前が最適である
- 鶏糞は栄養価が高く、与えすぎは「肥料焼け」の原因となる
- 元肥の施肥量は1平方メートルあたり500g以下を目安とし、控えめに施用する
- 施肥方法は、元肥では土とよく混和し、追肥では株元から離して与えるのが鉄則である
- 鶏糞は「肥料」としての役割が強く、土壌改良効果は限定的である
- 牛糞は「土壌改良材」としての役割が強く、土をフカフカにする効果が高い
- 鶏糞と牛糞は、それぞれの特性を理解し、目的によって使い分けることが重要である
- 鶏糞の過剰施用は土壌をアルカリ性に傾け、栄養吸収を阻害する可能性がある
- 鶏糞をやりすぎた場合は、酸度未調整ピートモスで土壌pHを矯正するのが有効な対処法である
- 「種苗法」により、登録品種のいちごを許諾なく自家増殖することは制限されている
- 増殖した登録品種の苗を他人に譲渡・販売する行為は違法である
- 安全かつ確実に栽培を楽しむためには、毎年正規の苗を購入することが推奨される











