園芸農業と施設園芸農業の違いについて、正確に説明できますか?これらの用語はよく似ていますが、実は意味する範囲や栽培方法に明確な違いがあります。園芸農業とは何か、そして施設園芸農業とは何かという基本的な定義から始まり、輸送園芸農業と施設園芸農業の違いや、促成栽培と施設園芸農業の違いまで、多くの人が疑問に思う点も少なくありません。また、園芸農業には何種類ありますかという問いや、そもそも施設園芸農業が選ばれる理由は何なのかという背景も気になるところです。この記事では、これらの農業形態の違いを基礎から丁寧に解説し、あなたの疑問を解消します。
- 園芸農業と施設園芸農業の基本的な定義
- 輸送園芸農業や近郊農業との関連性
- 促成栽培や抑制栽培といった栽培技術との違い
- 施設園芸農業が持つメリットとデメリット
基礎から理解する園芸農業と施設園芸農業の違い
- 広い意味を持つ園芸農業とは
- 施設を利用した施設園芸農業とは
- 園芸農業には何種類ありますか
- 輸送園芸農業と施設園芸農業の違い
- 近郊農業や遠郊農業との関係性
広い意味を持つ園芸農業とは
まず、園芸農業とは、野菜や果物、花き(観賞用の花)などを、主に大都市の市場へ出荷し販売することを目的とした農業の総称です。比較的狭い土地で、多くの資本や労働力を投入して集中的に行い、高い収益を目指す特徴があります。言ってしまえば、現在日本で行われている商業的な野菜・果樹・花き栽培の多くが、この園芸農業の枠組みに含まれると考えてよいでしょう。
この園芸農業は、栽培する場所や方法によって、さらにいくつかの種類に分類されます。そのため、「園芸農業」という言葉は非常に広い意味を持つ、農業の一つの大きなカテゴリであると理解することが重要です。古くはパリ盆地のブドウ栽培などもその一例ですが、現代では輸送技術の発展により、その形態は多様化しています。
施設を利用した施設園芸農業とは
一方、施設園芸農業とは、園芸農業の中でも、ビニールハウスやガラス温室といった「施設」を利用して作物を栽培する農業形態を指します。つまり、施設園芸農業は園芸農業という大きな枠組みの中に含まれる、栽培方法の一つということです。
屋外の畑で自然の天候のもとで作物を育てる「露地栽培」とは対照的に、施設園芸農業では人工的に環境をコントロールします。これにより、天候不順や病害虫のリスクを減らし、年間を通じて安定した生産や、出荷時期の調整が可能になります。クリスマスシーズンに見かけるイチゴや、真冬に並ぶ夏野菜などは、この施設園芸農業の技術によって生産されています。
ポイントの整理
- 園芸農業:大都市向けに野菜や花などを栽培する農業の総称。
- 施設園芸農業:園芸農業の中で、ビニールハウスなどの施設を使う栽培方法。
このように、施設園芸農業は園芸農業の一種であり、全く別のカテゴリではありません。
園芸農業には何種類ありますか
園芸農業は、その立地条件や栽培技術によって、いくつかの種類に分類されます。これらの分類は互いに独立しているわけではなく、複合的に組み合わさることが多いのが特徴です。例えば、「都市の近くで、ビニールハウスを使って、出荷時期を早める」といったケースも存在します。
主な分類方法を以下の表にまとめました。
分類の視点 | 種類 | 主な特徴 |
---|---|---|
立地(都市からの距離) | 近郊農業 | 大都市の近郊で行われる。新鮮さが求められる葉物野菜などが中心。 |
立地(都市からの距離) | 輸送園芸農業(遠郊農業) | 大都市から離れた場所で行われる。トラックなどでの長距離輸送が前提。 |
栽培方法 | 施設園芸農業 | ビニールハウスや温室などの施設を利用する。 |
栽培方法 | 露地栽培 | 施設を利用せず、屋外の畑で栽培する。 |
出荷時期の調整 | 促成栽培 | 施設などを活用し、通常の旬より早く出荷する。 |
出荷時期の調整 | 抑制栽培 | 高冷地の気候などを利用し、通常の旬より遅く出荷する。 |
このように、園芸農業は「どこで」「どのように」「いつ出荷するか」という視点から、様々な呼び方がされています。
輸送園芸農業と施設園芸農業の違い
輸送園芸農業と施設園芸農業の違いは、分類の「軸」が異なります。輸送園芸農業は「都市からの距離」に注目した分類であり、高速道路網や保冷技術の発達によって、消費地から遠い地域でも行われるようになった園芸農業を指します。群馬県嬬恋村のキャベツなどが代表例で、保冷トラックで東京などの大都市へ出荷されます。
対して、施設園芸農業は「栽培方法」に注目した分類で、ビニールハウスを使うかどうかを基準にしています。このため、両者は対立する概念ではありません。実際、遠隔地でビニールハウスを使って作物を栽培し、それをトラックで都市部へ輸送する「輸送園芸農業かつ施設園芸農業」という形態も多く存在します。
豆知識
輸送園芸農業は、トラックで輸送することが多いため「トラックファーミング」と呼ばれることもあります。
近郊農業や遠郊農業との関係性
近郊農業と遠郊農業も、輸送園芸農業と同様に「都市からの距離」で分類される園芸農業の一種です。
近郊農業
文字通り、東京や大阪などの大消費地の「近く」で行われる農業です。都市部に近いため輸送コストが低く、鮮度が命であるホウレンソウやコマツナといった葉物野菜、あるいは植木などの重量がある作物の栽培に適しています。茨城県や千葉県、埼玉県などで盛んに行われています。
遠郊農業
「遠い」郊外で行われる農業で、これは「輸送園芸農業」とほぼ同じ意味で使われます。消費地から離れているという立地上の不利をカバーするため、その土地の気候を活かした特定の作物を専門的に栽培する傾向があります。例えば、温暖な気候を利用して出荷を早めたり、高原の冷涼な気候を利用して出荷を遅らせたりします。
このように、近郊農業と遠郊農業(輸送園芸農業)は、園芸農業を都市からの距離という物差しで分けたものと理解すると分かりやすいでしょう。
栽培技術で見る園芸農業と施設園芸農業の違い
- 促成栽培と施設園芸農業 違いを解説
- 施設園芸農業で行われる促成栽培
- 出荷を遅らせる抑制栽培とは
- なぜ施設園芸農業が選ばれる理由は何?
- 施設園芸農業のメリットとデメリット
- まとめ:園芸農業と施設園芸農業の違い
促成栽培と施設園芸農業 違いを解説
促成栽培と施設園芸農業も、しばしば混同されがちな用語ですが、これも分類の視点が異なります。促成栽培は「出荷時期」を基準にした栽培方法で、本来の収穫時期(旬)よりも生育を早めて出荷することを指します。市場に品薄な時期に出荷することで、高い価格での販売を狙うのが目的です。
一方で、施設園芸農業は前述の通り「栽培方法」に関する用語で、ビニールハウスなどの施設を使うかどうかを示します。両者の関係は深く、出荷時期を早める促成栽培を行うためには、冬でも暖かい環境を作る必要があり、そのためにビニールハウスなどの施設が利用されることが非常に多いのです。
つまり、「施設園芸農業」という手法を用いて、「促成栽培」という目的を達成する、という関係性と捉えることができます。
施設園芸農業で行われる促成栽培
施設園芸農業の技術を活用した促成栽培の代表例は、数多くあります。私たちの食生活に身近なものばかりです。
例えば、宮崎平野や高知平野で行われるナス、ピーマン、キュウリなどの夏野菜の促成栽培が有名です。これらの地域は冬でも比較的温暖で日照時間が長いため、ビニールハウスを加温する際の燃料費を抑えられます。この利点を活かし、本来は夏に収穫する野菜を冬から春にかけて栽培し、他の産地の露地物が出回る前の時期に出荷することで、高い収益を上げています。
また、冬のイベントに欠かせないイチゴも、その多くが促成栽培によって生産されています。本来の旬は春から初夏ですが、クリスマスケーキの需要が高まる冬に出荷を合わせるため、施設園芸農業の技術が不可欠となっています。

出荷を遅らせる抑制栽培とは
促成栽培とは逆に、本来の収穫時期よりも出荷を「遅らせる」栽培方法を抑制栽培と呼びます。これも、他の産地の出荷が終わって市場の品薄になる時期を狙って、高値で販売するための工夫です。
抑制栽培は、主に夏でも涼しい高冷地の気候を利用して行われます。代表的なのが、長野県の野辺山高原や群馬県の嬬恋村などで栽培されるレタスやキャベツといった高原野菜です。これらの野菜は冷涼な気候を好むため、平野部での収穫が終わる夏から秋にかけて収穫・出荷されます。
また、少し特殊な例として、愛知県の渥美半島などで盛んな「電照菊」があります。キクは日照時間が短くなると花を咲かせる性質(短日植物)を持っています。この性質を利用し、夜間に電灯で畑を照らして日照時間が長いと錯覚させることで、開花の時期を遅らせて出荷を調整しています。これも抑制栽培の一種です。
なぜ施設園芸農業が選ばれる理由は何?
近年、新規に農業を始める人の多くが施設園芸農業を選ぶなど、その人気は高まっています。では、なぜ施設園芸農業が選ばれるのでしょうか。その理由は、主に経済的なメリットと安定性にあります。
最大の理由は、露地栽培に比べて高い収益性が期待できる点です。農林水産省のデータによると、施設野菜作の10aあたりの所得は、露地野菜作の約3倍にもなるという報告があります。これは、出荷時期を調整して高値で販売できることや、年間を通じて安定的に収穫できるためです。
また、天候に左右されにくく、計画的な生産・出荷が可能なため、経営が安定しやすいというメリットもあります。台風や長雨、猛暑といった異常気象のリスクを低減できるのは、農業経営において非常に大きな強みです。さらに、病害虫の侵入を防ぎやすく、農薬の使用を減らした高品質な作物を栽培しやすい点も、消費者ニーズと合致しており、選ばれる理由となっています。
施設園芸農業が選ばれる理由
- 露地栽培に比べて高い所得が期待できる(約3倍)
- 天候に左右されず、年間を通じて安定した生産が可能
- 計画的な出荷により、安定した経営が見込める
- 病害虫のリスクが少なく、高品質な作物を栽培しやすい
- 新規就農者でも技術を学びやすく、参入しやすい
施設園芸農業のメリットとデメリット
高い収益性と安定性から注目される施設園芸農業ですが、もちろん良い点ばかりではありません。始めるにあたっては、メリットとデメリットの両方をしっかりと理解しておくことが重要です。
メリット
これまでの解説と重なる部分もありますが、施設園芸農業の主なメリットを改めて整理します。
- 収穫量の安定化:天候の影響を受けにくいため、年間を通じて安定した収穫量が見込めます。これにより収入も安定し、計画的な経営が可能になります。
- 高品質な作物の栽培:温度、湿度、日照などを人工的にコントロールできるため、作物の生育に最適な環境を整えられます。結果として、品質の高い作物を育てやすくなります。
- 病害虫被害の軽減:施設が外部環境と隔離されているため、病気や害虫が侵入するリスクが低くなります。農薬の使用を減らすことにも繋がり、安全・安心な作物を提供できます。
- 出荷時期の調整:促成栽培や抑制栽培により、市場価格が高い時期を狙って出荷でき、収益性を高めることができます。
デメリット
一方で、施設園芸農業には特有の課題やリスクも存在します。
注意すべきデメリット
- 高い初期投資:ビニールハウスや温室の建設、加温設備や環境制御機器の導入など、露地栽培に比べて多額の初期コストがかかります。
- ランニングコストの発生:特に加温設備を使用する場合、冬場の燃料費(重油など)が高額になることがあります。燃料価格の変動が経営を圧迫するリスクがあります。
- 施設の損壊リスク:台風による倒壊や、大雪による破損など、自然災害によって施設が損壊するリスクが常に伴います。修復には大きな費用と時間がかかります。
これらのデメリットを克服するため、国や自治体は補助金や交付金といった支援制度を用意しています。施設園芸農業を始める際には、こうした制度をうまく活用することが成功の鍵となります。
まとめ:園芸農業と施設園芸農業の違い
- 園芸農業は野菜や花などを都市向けに出荷する農業の大きな括り
- 施設園芸農業は園芸農業の中でビニールハウスなどの施設を使う方法
- 施設園芸農業は園芸農業の一種であり対立する概念ではない
- 輸送園芸農業は都市から遠い場所で行う立地による分類
- 近郊農業は都市に近い場所で行う立地による分類
- 施設園芸と輸送園芸は分類の軸が異なり両立しうる
- 促成栽培は出荷時期を早めるタイミングによる分類
- 抑制栽培は出荷時期を遅らせるタイミングによる分類
- 促成栽培ではビニールハウスなどの施設が使われることが多い
- 施設園芸農業は露地栽培に比べ収益性が高いのが特徴
- 天候に左右されず安定生産できるのが施設園芸のメリット
- 高品質な作物を栽培しやすく病害虫のリスクも低い
- デメリットは初期投資や燃料費などのコストが高いこと
- 台風や大雪による施設損壊のリスクも考慮が必要
- 多くのメリットから新規就農者にも人気の高い農業形態である