グランドカバーとして人気のツルニチニチソウ。紫色の可憐な花と艶やかな葉が魅力的で、日陰でも元気に育つため、お庭に迎え入れたいと考える方も多いでしょう。しかし、「ツルニチニチソウは植えてはいけない」という言葉を耳にしたことはありませんか?実はその手軽さの裏には、制御不能な繁殖力、子供やペットにとって危険な毒性、そして日本の生態系を脅かす「重点対策外来種」という深刻な問題が隠されています。この記事では、園芸の専門家として、なぜツルニチニチソウを安易に植えるべきではないのか、その3つの理由を徹底解説します。さらに、すでにお庭にある場合の安全な管理や駆除方法、そして代わりとなる魅力的な代替植物まで、あなたのガーデニングをより安全で豊かなものにするための知識を詳しくお伝えします。
- ツルニチニチソウを植えてはいけない3つの深刻な理由
- 庭の生態系を壊す恐れのある「重点対策外来種」とは
- もし庭にある場合の安全な管理方法と完全な駆除手順
- 代わりになる日陰にも強い優秀なグランドカバー植物5選
なぜツルニチニチソウを植えてはいけないのか?3つの深刻な理由
- 制御不能な繁殖力と庭への侵食
- 小さな子供やペットに潜む毒性の危険
- 生態系を脅かす「重点対策外来種」という事実
制御不能な繁殖力と庭への侵食

ELツルニチニチソウが「植えてはいけない」と言われる最大の理由の一つが、その驚異的な繁殖力です。この植物は長く伸びたつるの節々からいとも簡単に根を出し、地面に触れた場所から次々と新しい株を作り出して勢力を拡大していきます。最初は可憐なグランドカバーだったはずが、数年も経たないうちに庭の大部分を覆い尽くし、大切に育てていた他の草花や低木の生育スペースを奪い、景観を損なうだけでなく、庭全体の生態系のバランスを崩してしまうことさえあります。
問題は、その成長の速さだけではありません。一度根付いてしまうと、その駆除が非常に困難であるという点が、さらに事態を深刻にします。地上部を刈り取っても、土の中に少しでも根や茎の断片が残っていると、そこから再生してしまうのです。この驚異的な再生能力は、中途半端な手入れがかえって株を増やす結果につながることを意味します。さらに、一部の除草剤が効きにくいという報告もあり、一度庭に広がりきってしまうと、完全に取り除くためには多大な労力と時間、そして根気が必要になることを覚悟しなければなりません。
繁殖力の問題点まとめ
- つるが地面に触れると、そこから発根して無限に増殖する。
- 他の植物の生育領域を奪い、庭の生態系を破壊する。
- 土中に残ったわずかな根や茎の断片からでも再生する。
- 完全な駆除には、非常に大きな労力と時間が必要となる。
小さな子供やペットに潜む毒性の危険


ツルニチニチソウの美しい見た目に反して、その全草、つまり葉、茎、花、根のすべてに毒性成分が含まれているという事実は、あまり知られていません。この植物が属するキョウチクトウ科は、有毒植物が多いことで知られており、ツルニチニチソウも例外ではないのです。含まれている毒は「アルカロイド」という成分で、人間やペットが誤って口にしてしまうと、深刻な中毒症状を引き起こす可能性があります。
特に注意が必要なのは、好奇心旺盛な小さなお子さんや、何でも口に入れてしまう可能性のある犬や猫などのペットがいるご家庭です。人間が摂取した場合、腹痛、嘔吐、下痢といった消化器系の症状のほか、重い場合には心臓への影響や血圧低下を引き起こす危険性も指摘されています。
ペットにとってはさらに危険です。犬や猫が摂取すると、嘔吐や下痢といった症状に加えて、震えや痙攣(けいれん)といった神経系の重篤な症状が現れることがあります。また、茎を切ったときに出る白い乳液状の汁が皮膚に触れると、肌が弱い人はかぶれや皮膚炎を起こすこともあります。このように、ツルニチニチソウの毒性は、単なる「お腹を壊す」レベルではなく、命に関わる可能性も秘めた、非常に注意すべき危険なのです。
毒性に関する重要ポイント
ツルニチニチソウは全草にアルカロイド系の毒を含みます。誤って摂取すると、人間では腹痛や嘔吐、ペットではさらに重い痙攣などの神経症状を引き起こすことがあります。もしペットが口にした疑いがある場合は、直ちに獣医師の診察を受けてください。
生態系を脅かす「重点対策外来種」という事実



個人の庭の問題にとどまらず、ツルニチニチソウを植えるべきではない社会的な理由が存在します。それは、この植物が環境省と農林水産省によって2015年3月に公表された「生態系被害防止外来種リスト」に掲載されているという事実です。
このリストは、本来その地域に生息していなかった外来種のうち、日本の生態系、人の生命・身体、農林水産業へ悪影響を及ぼす、あるいはその恐れがある種を選定したものです。ツルニチニチソウが「重点対策外来種」に分類されていることは、すでに関東以西の地域を中心に野生化が確認されており、在来の植物と競合し、地域の生態系を脅かす危険性が高いと国が公式に認めていることを意味します。
地中海沿岸地域(南ヨーロッパから北アフリカ)原産のツルニチニチソウは、日本の自然環境には存在しなかった植物です。その強靭な生命力と繁殖力によって、一度野外に逸出すると、もともとその土地で暮らしてきた在来の野草たちの生育場所を奪い、その地域の植物相を大きく変えてしまう力を持っています。あなたの庭に植えた一本のツルニチニチソウが、鳥や虫、あるいは刈り取った枝の不適切な処分などによって野外に広がり、貴重な日本の自然を破壊するきっかけになるかもしれないのです。ガーデニングを楽しむ私たちには、美しい庭を作ることと同時に、地域の生態系を守るという大切な責任があるのです。
賢い管理法とツルニチニチソウに代わる魅力的な植物
- もし庭にある場合の適切な管理と剪定方法
- 増えすぎた場合の安全な駆除・撤去の手順
- 代わりになる!日陰にも強い優秀グランドカバー5選
もし庭にある場合の適切な管理と剪定方法


「植えてはいけない」と聞いても、すでにお庭にツルニチニチソウがある場合、すぐにすべてを抜き去るのは難しいかもしれません。もし当面の間、管理しながら付き合っていくのであれば、その爆発的な繁殖力を封じ込めるための徹底した管理が不可欠です。
最も重要なのは、つるを地面に接触させないことです。つるが地面に触れるとそこから発根し、新たな株となってしまうため、定期的な剪定(切り戻し)が欠かせません。伸びすぎたつるは、こまめに切り詰めてください。特に斑入りの品種を育てている場合、時折現れる緑一色の葉(先祖返り)のつるは、斑入りのものより格段に生育旺盛なため、見つけ次第、根元から切り取るようにしましょう。
また、肥料の管理も重要なポイントです。ツルニチニチソウは痩せた土地でも十分に育つため、特に地植えの場合は追肥の必要は全くありません。むしろ、肥料を与えるとつるが過剰に茂り(徒長)、管理がより一層困難になります。栄養を与えてその成長を助けるようなことは、絶対に避けるべきです。
もしこれから楽しみたいのであれば、地植えは絶対に避け、つるが地面に届かないハンギングバスケットや高さのあるプランターで育てるのが唯一の安全な方法と言えるでしょう。
管理の3原則
- 剪定の徹底:伸びたつるは地面に着く前にこまめに切り戻す。
- 追肥は厳禁:余計な栄養を与えず、生育を可能な限り抑制する。
- 鉢植え限定:地植えは避け、ハンギングなどで物理的に隔離する。
増えすぎた場合の安全な駆除・撤去の手順


もしツルニチニチソウが手に負えないほど増えてしまい、完全な撤去を決意した場合は、その再生能力を断ち切るための徹底的な作業が求められます。中途半端な作業は、かえって状況を悪化させる可能性があるため、正しい手順で行いましょう。
まず、作業を始める前に、毒性のある乳液から皮膚を守るため、必ず長袖の服とゴム手袋を着用してください。
手順としては、物理的な除去が基本となります。
1. まず、地上に見えているつるを、できるだけ根元に近い部分で刈り取ります。
2. 次に、スコップや鍬(くわ)などを使って、土を深く掘り返し、土中に張り巡らされた根を丁寧に取り除きます。わずかな根の断片でも残っていると、そこから再生してしまうため、熊手なども使いながら徹底的に除去することが重要です。
3. 集めたつるや根は、絶対に堆肥に入れたり、その場に放置したりしてはいけません。ビニール袋に密閉し、自治体のルールに従って燃えるゴミとして処分してください。
広範囲にわたって蔓延している場合は、グリホサート系の除草剤を使用する方法もあります。ただし、他の大切な植物まで枯らしてしまう可能性があるため、使用には細心の注意が必要です。周囲の植物に影響が出ないよう、風のない日に、枯らしたいツルニチニチソウの葉に直接塗布するなどの工夫をしましょう。
駆除は一度で終わらない
一度徹底的に作業しても、土中に残った見えない根から再び芽を出すことがあります。駆除作業後も数ヶ月は注意深く観察し、新たな芽を見つけ次第、すぐに抜き取る作業を繰り返すことで、根絶に近づけることができます。
代わりになる!日陰にも強い優秀グランドカバー5選





ツルニチニチソウの魅力であった「日陰に強い」「丈夫で育てやすい」という特徴を持ちながら、侵略的な性質を持たない優秀な植物は数多く存在します。ここでは特におすすめの5種類を、それぞれの魅力と育て方のポイントとともに解説します。
1. アジュガ:春に青や紫、ピンク色の美しい花穂を立ち上げる姿が印象的です。葉の色も銅葉や斑入りなど多彩で、花のない時期もカラーリーフとして楽しめます。ランナーでゆっくりと広がり、密なマット状になるため雑草抑制効果も期待できます。
2. リシマキア・ヌンムラリア・オーレア:明るいライムグリーンの丸い葉が、暗くなりがちな日陰の庭をパッと明るく演出してくれます。初夏には可愛らしい黄色の花を咲かせます。匍匐性で広がりますが、根が浅いため、広がりすぎても簡単に間引くことができ、管理が非常に楽です。
3. ヒメツルソバ:春から秋まで非常に長い期間、金平糖のようなピンク色の小花を咲かせ続けます。非常に強健で、日向から半日陰まで場所を選ばず育ちます。冬には地上部が枯れることもありますが、春には再び芽吹き、旺盛に茂ります。
4. ラミウム:銀白色の斑が入った葉が特徴で、シェードガーデンの貴重なシルバーリーフとして活躍します。春にはピンクや白の可憐な花を咲かせます。蒸れに少し弱いですが、水はけの良い場所に植えれば、手間なく育てられます。
5. ギボウシ(ホスタ):厳密には匍匐性のグランドカバーではありませんが、密に植えることで地面を覆い、雑草を防ぐ効果があります。多彩な葉の形、色、大きさがあり、コレクションする楽しみも。日陰の庭に落ち着きと気品を与えてくれる、シェードガーデンの王様です。
これらの植物をうまく組み合わせることで、ツルニチニチソウに頼らずとも、一年中変化に富んだ美しい日陰の庭を作ることが可能です。
代替植物 比較表
どの植物がご自身の庭に合うか、以下の表で比較検討してみてください。
| 植物名 | 推奨環境 | 主な特徴 | 成長タイプ | 管理の手間 |
|---|---|---|---|---|
| アジュガ | 半日陰~日陰 | 春に美しい花穂が立ち上がる。多様な葉色で年間通して楽しめる。 | ランナーで広がる | 少ない |
| リシマキア・ヌンムラリア・オーレア | 日向~半日陰 | 明るいライムグリーンの葉が日陰を明るくする。初夏に黄色い花。 | 匍匐(ほふく)性 | 少ない(広がりすぎたらカット) |
| ヒメツルソバ | 日向~半日陰 | 長期間咲き続ける金平糖のようなピンクの花が愛らしい。非常に強健。 | 匍匐(ほふく)性 | 非常に少ない |
| ラミウム | 半日陰~日陰 | 銀白色の美しい斑入り葉が特徴。シェードガーデンに最適。 | 匍匐(ほふく)性 | 少ない(夏の蒸れに注意) |
| ギボウシ(ホスタ) | 半日陰~日陰 | 多彩な葉の形・色が魅力。落ち着いた雰囲気で、夏の涼しげな花も良い。 | 株でまとまる | 少ない(ナメクジ対策が必要な場合あり) |
総括:ツルニチニチソウを植えてはいけない理由を理解し、賢明な植物選びを
この記事のまとめです。
- ツルニチニチソウは「植えてはいけない」と言われるだけの深刻な理由が存在する
- その最大の理由は、制御不能な繁殖力にあり、庭全体を侵食する危険性がある
- つるの節々から発根し、土中に残った断片からも再生するため駆除が極めて困難である
- 全草にアルカロイド系の毒を含み、特に子供やペットには危険である
- ペットが誤食すると、嘔吐や下痢に加え、痙攣などの重篤な神経症状を引き起こす恐れがある
- 茎から出る乳液は、皮膚炎の原因になることがあるため、扱う際は手袋が必須である
- 環境省により「重点対策外来種」に指定された、生態系に悪影響を及ぼす植物である
- 庭からの逸出が、在来種の生息域を脅かし、日本の生物多様性を損なう一因となる
- すでにある場合は、追肥をせず、つるが地面に着く前に剪定を徹底することが管理の基本である
- 安全に楽しむには、地植えを避け、ハンギングバスケットなどでの栽培に限定すべきである
- 駆除する際は、根を徹底的に掘り起こし、残骸は燃えるゴミとして処分する必要がある
- 駆除後も、残った根からの再発がないか、継続的な監視と除去が不可欠である
- 代替植物は多く存在し、日陰に強く管理が容易な種類を選ぶことができる
- アジュガやリシマキア、ヒメツルソバなどは、美しさと管理のしやすさを両立できる優れた代替候補である
- 植物を選ぶ際は、その美しさだけでなく、繁殖力や毒性、生態系への影響まで考慮することが責任ある園芸家の姿勢である









